判例データベース
B社事件
- 事件の分類
- 賃金・昇格
- 事件名
- B社事件
- 事件番号
- 東京地裁-平成19年(ワ)第11816号
- 当事者
- 原告…個人1名、被告…株式会社
- 業種
- 学術研究、専門・技術サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2012年12月27日
- 判決決定区分
- 一部容認、一部棄却
- 事件の概要
- X(原告)は2003(平成15)年4月、主として商業デザインの企画、制作、及び販売を業とする株式会社B(被告)に入社し、グラフィックデザインの業務に従事していた。しかし、2006(平成18)年8月15日以降は、「頸肩腕症候群、右手腱鞘炎」を発症して休業している(なお、上記疾病は2007[平成19]年2月20日に労働災害として認定された)。
Xの基本給は、入社の月から2004(平成16)年5月度までが月30万円、同年6月度から2005(平成17)年5月度までが月31万円、同年6月度から2006年5月度までが月36万円であった。なお、2006年5月度まで、Bにおける本給外の手当は、職務手当のほかは休日手当しかなかったところ、同年6月度から、本給を細分化し、本給、職務手当、住宅手当、残業手当等に振り分けて支給するようになった。この細分化により、Xの2006年6月度からの賃金は、本給18万9000円、職務手当11万円、住宅手当2万円、残業手当3万円の合計34万9000円となり、実質的に月1万1000円の減額となった。その一方で同僚ほか従業員のなかには、4000円から5万2000円の昇給となった者がいる。
Xはデザインディレクターとして入社したのにもかかわらずBはXに対してデザイナー職としての賃金しか支払わず、かつ女性であることを理由に賃金を不当に低く設定していた(①)、また2006年6月度から同年8月度まで合理的かつ正当な理由もなく、Xの同意もないまま一方的にXの給与を1万1000円減額し(②)、そして2年間の時間外労働があった(③)としてBに対し割増賃金及び付加金を請求し、さらに主要業務であるパッケージデザイン業務の経験がなく、Xよりも6歳年下である男性職員Bの賃金が、2006年入社時に40万円であった等を鑑みて、女性であることを理由に賃金を不当に低く設定した男女賃金差別があった(④)こと等の不法行為に基づく損害賠償としての差額賃金相当額等の支払いをBに求めて提訴した。 - 主文
- 1 Yに対し約800万円の未払い残業代の支払い等を命じる。
2 男女賃金差別についての請求は棄却する。 - 判決要旨
- ③につき、Xの労働時間については、Bにおける勤務時間管理はタイムカードによって記録、管理されているが、この場合、タイムカードの時間がすべて労働時間とは限らないが、それでも会社がタイムカードで労働時間を把握している以上、原則としてその打刻時間が業務時間であると事実上推認される。しかし労働者が「タイムカードを押した後も業務をした」と主張し、その客観的な証拠がある場合、タイムカードの打刻時間を超えて認定されることもあり得、Xのパソコン上のデータ保存記録が残されていること、また最終データ保存時刻又はメール送信時刻等から、Xの出勤と退勤の時刻を認めることが相当であり、BのXに対する2004年11月から2006年8月にかけての時間外労働等に対する割増賃金元金及び遅延損害金が認められる。
②につき、賃金の減額は、重要な労働条件の変更に当たるため、基本的には就業規則、労働協約ないし雇用契約に減額事由が根拠付けられていることが必要であり、少なくとも、職位と賃金の連動が明らかとなるような客観的、合理的根拠が必要である。本件全証拠によっても、Xが当該減額に合意した事実は認められず、当該減給に関し、Xの同意に代わる客観的、合理的根拠があると認めることもできない。したがって、Bによる賃金減額は無効である。
①につき、Xの基本給については、賃金の引き下げの合意や賃金差別等の事実を認めるに足る的確な証拠がない。さらに④については、比較対象とすべき者、すなわちXと同種同程度の経験を持ち、同内容の職務を担当する男性同僚の存在を認めることはできず、同僚の能力、経験、担当職務等がXと同程度であったと認めるに足る的確な証拠はない。 - 適用法規・条文
- 民法709条
- 収録文献(出典)
- 労働判例1069号21頁
- その他特記事項
- 本件は上述のほか、昇給差別の有無(⑤)、賞与の不当カット(⑥)、交通費の請求の可否(⑦)等、多岐にわたって争われた(⑤、⑦は棄却され、⑥は容認されている)。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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