判例データベース
K社男女差別上告事件
- 事件の分類
- 賃金・昇格
- 事件名
- K社男女差別上告事件
- 事件番号
- 最高裁-平成20年(オ)第718号・第719号、平成20年(受)第866号・第867号
- 当事者
- 原告…個人6名、被告…株式会社
- 業種
- 卸売業・小売業
- 判決・決定
- 決定
- 判決決定年月日
- 2009年10月20日
- 判決決定区分
- 上告棄却
- 事件の概要
- X1ら6名(一審原告、二審控訴人)は総合商社である株式会社K(一審被告、二審被控訴人)の社員である又は社員であった事務職の女性従業員である(X4、X5はKの社員であり、X1、X6は社員であった者、X2、X3は社員であったが、本件一審係争中に定年退職した者である)。Kでは、募集、採用、採用後の研修等において男女で異なる処遇をする、いわゆる男女コース別管理が行われ、ほとんど全ての男性従業員に適用される賃金体系とすべての女性従業員に適用される賃金体系とが異なっており、両者の間には相当な格差があった。Kは、1985(昭和60)年に人事制度を改め、その際に事務職から一般職への転換制度を設け、その後1997(平成9)年に再度人事制度を改め、従来の一般職を総合職掌及び一般職掌に、事務職を事務職掌とし、事務職から一般職への職掌転換制度も改めた。
X1らはKに対し、①X1らと同期の一般職の男性社員との間に賃金格差があるのは、違法な男女差別によるものである、②Kは、1989(平成元)年8月から定年を57歳から60歳に延長するのと併せて55歳に達した事務職を専任職に転換させその賃金を引き下げたが、これは違法な年齢及び男女差別である、③Kは、1997年4月から55歳に達した社員の調整給及び付加給を引き下げたが、これは違法な年齢及び男女差別であると主張し、①一般職の男性社員に適用されている一般職標準本俸表の適用を受ける地位にあることの確認、②(ア)これが適用された場合のX1らと同年齢の一般職の標準本俸(月例賃金、一時金)及び退職金とX1らが現に受領した本俸(月例賃金、一時金)との差額及び退職金との差額の支払い、(ウ)55歳からの調整給及び付加給引き下げについて引き下げ前との差額の支払い等を求めて提訴した。
第一審(東京地裁 2003年11月5日判決)は、Kの事務職の賃金体系と一般職の賃金体系に違法な差別があり、この差別がなければX2らに一般職の賃金体系が適用されるとするならば、X2らは一般標準本俸表の適用を受ける雇用関係上の地位にあることになり、そして、X2らが将来の差額請求を現時点で請求することはできず、KがX2らのこの地位を争っていることからすれば、X2らの地位を確認することが有効、適切であるとして、X2らの地位確認請求には確認の利益があるとした。そのうえで、従業員の募集、採用の条件は、労働基準法(以下、「労基法」という。)3条の定める労働条件ではなく、男女コース別の採用、処遇は労基法に直接違反しないし、1997年改正前の旧均等法(「雇用の分野における男女の均等な機会及び処遇の確保等女性労働者に福祉の増進に関する法律」)のような法律もなかったことなどから、Kの募集、採用は不合理ではなく、公序に反しないなどと判断して、X1らの請求をすべて棄却した。
第二審(東京高裁 2008年1月31日判決)は、職掌別人事制度導入前については、X1らが入社した当時は男女の差別的取扱いをしないことを使用者に義務付ける法律がなかったこと、企業には労働者の採用について広範な採用の自由があること、賃金の格差にはそれなりの合理的な理由が一応あること等により、賃金格差は公序良俗に反するまでとはいえないとした。これに対し、新人事制度導入期以降今日までについては、X1とX3とX4の関係では、同人らの賃金と同年齢の男性新一般1級の賃金との間に大きな格差があったことに合理的な理由は認められず、性の違いによって生じたものと推認され、男女の差によって賃金を差別する状態を形成、維持したKの措置は、労基法4条、不法行為の違法性の判断の基準とすべき雇用関係についての私法秩序に反する違法な行為であるとした。 - 主文
- 本件上告を棄却する。上告費用は上告人の負担とする。
- 判決要旨
- 上告棄却。Kでは職掌再編後も男女間の賃金格差が拡大されたと認定し、控訴人らが損害賠償を請求する期間の始期とする1992(平成4)年4月1日の時点において、控訴人の一部との関係では同人らと職務内容等を区別できないという意味で同質性があると推認される、一般1級中の若年者である30歳程度の男性一般職との間にすら相当な賃金格差があったことに合理的な理由が認められず、性の違いによって生じたものと推認され、同人らについて男女の差による賃金差別状態を形成、維持したKの措置は違法な行為であるとした高裁判決を確定した。
- 適用法規・条文
- 民法709条、労働基準法4条
- 収録文献(出典)
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
東京地裁 − 平成7年(ワ)第18760号 | 棄却 | 2003年11月05日 |
東京高裁 - 平成15年(ネ)第6078号 | 控訴一部認容・一部却下・一部棄却 | 2008年01月31日 |
最高裁-平成20年(オ)第718号・第719号、平成20年(受)第866号・第867号 | 上告棄却 | 2009年10月20日 |