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広島中央保健生協(C生協病院)差し戻し控訴事件(マタハラ)

事件の分類
賃金・昇格妊娠・出産・育児休業・介護休業等
事件名
広島中央保健生協(C生協病院)差し戻し控訴事件(マタハラ)
事件番号
平成26年(ネ)第342号
当事者
原告…個人1名、被告…協同組合
業種
医療介護事務
判決・決定
判決
判決決定年月日
2015年11月17日
判決決定区分
判決
事件の概要
 X(一審原告、二審控訴人)は1994(平成6)年3月21日、医療介護事務等を営む協同組合Y(一審被告、二審被控訴人)に雇用され、副主任の地位に任ぜられていた医学療法士である。2008(平成20)年2月、妊娠に伴い、XがYに対し、労働基準法65条3項に基づいて軽易業務への転換を請求したところ、業務の転換と同時に副主任の地位を免ぜられ、さらにXが育児休業から復帰した後もYはXを副主任の地位につけなかった。
 XはYに対し、本件措置は男女雇用機会均等法(以下、「均等法」と略記する)9条3項に反する違法無効なものであると主張し、管理職(副主任)の手当の支払い、及び不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償並びに各遅延損害金の支払いを求めて提訴した。
第一審では、いずれの措置も事業主であるYの裁量権の範囲内で行ったものであり、均等法にいう不利益な取扱いをしたものとは認め難いとしてXの請求を棄却した。Xが控訴したところ、Xが本件措置に同意していたこと等から、均等法に違反しているということ、そして人事権の濫用に当たるということはできず、Xの控訴を棄却した。これを不服としてXが上告したところ、最高裁判所は、「原判決を破棄する。本件を広島高等裁判所に差し戻す。」との判決(以下、「本件最高裁判決」という。)を言い渡した。
主文
1 原判決を次のとおり変更する。
2 一審被告は、一審原告に対し、175万3310円及びうち18万0500円に対する平成22年10月26日から、うち12万3500円に対する平成23年11月26日から、うち144万9310円に対する平成22年11月3日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を各支払え。
3 一審原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は、全審級を通じて一審被告の負担とする。
5 この判決の第2項は仮に執行することができる。
判決要旨
 本件措置につき、YはXの事前承諾を得た旨を主張するが、事前の承諾を得たと認めるに足りる証拠はなく、また、Xが本件措置を認識していたと主張するが、Xが妊婦としての不安から本件転換請求をしたこと、それが権利であるか否かは別として、軽易業務への転換に伴う異動により共に働く者に迷惑をかけることになり申し訳ないと思うことは通常のことであり、その中で副主任のまま異動したいとの希望を持っていたとしても、正面から人事権者等にそれを質問し問いただすことに躊躇を感じることは不自然であるとはいえないから、Xが確定的に副主任を免ぜられる認識を有していたとするYの主張は採用できない。さらに、Yは事後(異動後)において本件措置につきXの承諾があった旨を主張するが、Xが副主任免除に異議がなかったとまでは言えず、承諾を自由意思だと認定する合理的な理由が客観的に存在するとまではいえない。
 本件最高裁判決によると、均等法9条3項の規定は、同法の定める目的及び基本理念を実現するためにこれに反する事業主による措置を禁止する強行規定として設けられたものと解され、女性労働者につき軽易業務への転換等を理由として不利益な取扱いをすることは同項に反して違法無効であるとされているところ、本件措置につき、これを違法、無効でないとする事由は存在しない。したがってXはYに対し、賃金請求権に基づき、本件措置により不支給となった副主任手当等を求める権利を有することは言うまでもない。 
本件措置が不法行為又は債務不履行となるか否かは、前述の通り、本件措置につき、YがXの事前の承諾を得たと認めるに足りる証拠がないこと、事後において、Xがやむなく承諾したことは認められるとしても、これが自由意思に基づくものであると認定しうる合理的理由は存在しないこと等を鑑みると、Yには本件措置をなすにつき、使用者として女性労働者の母性を尊重し職業生活の充実の確保を果たすべき義務に違反した過失(不法行為)、労働法上の配慮義務違反(債務不履行)があるというべきであり、その重大さも不法行為又は債務不履行として民法上の損害賠償責任を負わせるに十分な程度に達していると判断できる。したがって、Yには本件措置により被ったXの損害を賠償する責任を負う。
適用法規・条文
均等法9条3項
収録文献(出典)
文献番号 2015WLJPCA11176001(ウエストロー・ジャパン)
その他特記事項