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Y社賃金差別事件

事件の分類
賃金・昇格
事件名
Y社賃金差別事件
事件番号
最高裁-平成19年(オ)第1452号・第1453号、平成19年(受)第1682号・第1683号
当事者
原告…個人1名、被告…株式会社
業種
製造業
判決・決定
決定
判決決定年月日
2009年01月22日
判決決定区分
棄却
事件の概要
 X(一審原告、二審被控訴人)はZ社に採用され、その後訴外会社に在籍出向し、1985(昭和60)年1月以降、合併した株式会社Yに在籍したまま同じ会社に出向し、1992(平成4)年5月に定年退職した、Yの女性従業員であった者である。Xの担当業務は、株券の名義書換に関する受付、端末データ入力等であった。合併前のZ社では、従業員は上からFからAまで格付けされ(ランク制)、Xは合併直前にD2であった。合併後のY社の職能資格等級につき、一般職はG1からG4に分かれていたが、Xは合併に伴いG3となり、その後G2に昇格し、以後退職するまでG2であった。
 Xは、YがXに対し、女性に対する差別的意思をもって、賃金差別または配置・昇格に関する差別を行ったことは故意に基づく違法として、不法行為を構成すると主張し、これに基づく損害賠償として、会社合併によりYとなった1985年1月以降退職時までの差額賃金相当額、差額退職金相当額、差額公的年金相当額及び慰謝料等の支払いを求めて提訴した。
 第一審(東京地裁 2003年1月29日判決)は、Yにおいては男女間で同一ランクにおける定期昇給額、同一年齢者における本給額のいずれにおいても著しい格差があり、Xと同一学歴で年齢が同じか数年若い男性との間で、ランク、定期昇給額、本給額において著しい格差があることを認定し、YはXが女性であることのみを理由として、賃金に関し、男性と差別する取扱いをしたものとし、Yの差別的取扱いは、故意又は過失による不法行為に当たるとして、賃金相当損害金等の合計4136万円余の支払いを命じた。しかし、Xの求めた慰謝料の請求については退けた。Yはこの判決を不服として控訴したが、Xも第一審敗訴部分について附帯控訴した。
 第二審(東京高裁 2007年6月28日判決)は一審と同様に、合併前のZ社において行われていたランクの男女間の差別格付けが、合併後のYにおいても継続して行われた結果、Xを含む女性労働者に対する合理的な理由のない賃金差別がなされたことを認定し、不法行為による損害賠償請求を認容した。
 損害賠償の算定については、Yが主張した消滅時効の完成を認め、その結果、1991(平成3)年3月分より前の月例賃金、及び賞与のYの債務は消滅し、Xに対する損害賠償額は減額された。ただし、当該判決は、消滅時効の問題は、退職金差額相当額の損害金の算定の問題には無関係であり、このことは一時金分、年金分を問わないとした。さらに、Yの差別的取扱いによりXが受けた被害感情、不利益感が大きいと思料されること等から、Xの慰謝料請求を一部認め、その額を200万円とした。
主文
本件上告を棄却する。上告費用は上告人の負担とする。
判決要旨
 上告棄却。合併前のZ社においてなされていたランクの男女間の差別格付けが、合併後のY社においても継続して行われた結果、Xを含む女性労働者に対する合理的な理由のない賃金差別が行われたことを容認して不法行為に基づく損害賠償請求を認容し、また、Xの職務職能等級をG2のまま据え置いた措置は、雇用関係の私法秩序に反し違法であり、少なくとも過失による不法行為が成立するとした高裁判決を確定した。
適用法規・条文
民法709条、男女雇用機会均等法8条(改正前)
収録文献(出典)
労働判例946号76頁
その他特記事項