判例データベース
医療法人Y会(I病院)事件(控訴)
- 事件の分類
- 賃金・昇格妊娠・出産・育児休業・介護休業等
- 事件名
- 医療法人Y会(I病院)事件(控訴)
- 事件番号
- 大阪高裁 平成25年(ネ)第3095号
- 当事者
- 原告…個人、被告…医療法人
- 業種
- 医療保健業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2014年07月18日
- 判決決定区分
- 一部容認、一部棄却
- 事件の概要
- X(一審原告、二審控訴人)は、病院、診療所、介護老人保護施設を経営し、看護、介護及び医療等の普及目的とする医療法人であるY(一審被告、二審被控訴人)において1998(平成10)年4月、短時間労働者として採用され、2003(平成15)年4月から2013(平成25)年1月31日まで看護師として勤務していた。
Xが2010(平成22)年9月4日から同年12月3日まで育児休業を取得したところ、Yが、Xの当該3ヶ月間の不就労を理由として、2011(平成23)年度の職能給を昇給させず(1)、また、2011年度終了時点において受験要件である標準年数が経過しておらず人事評価の対象外とみなしたため、Xは昇格試験を受験する機会を得ることができなかった(2)。そこでXは、Yのこの行為([1]及び[2])が、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(以下「育児・介護休業法」と略記する。)10条に定める不利益取扱いに該当し、民法90条における公序良俗に反する違法行為であるとして、Yに対し、不法行為に基づき、昇給・昇格していた場合の給与及び退職金と実際のそれとの差額に相当する損害の賠償、並びに慰謝料30万円の支払いを求めて提訴した。
一審は、(1)につき、これによりXが被った経済的不利益が年間4万2000円にとどまることに鑑みて、育児・介護休業法10条の趣旨からして望ましいものではないとしても、労働者の同法の上の育児休業取得の権利を抑制し、ひいては同法が労働者に前記権利を保障した趣旨を実質的に失わせるものとまでは認められず、公序良俗に反する違法なものとまではいえず、育児・介護休業法10条に定める不利益取扱いに該当しないと判断した。(2)につき、Yの就業規則上、3ヶ月間以上の育児休業を取得した者は人事評価の対象とならない旨の規定はなく、さらに人材育成評価マニュアルには、評価期間中における勤務期間が3ヶ月に満たない者は評価不能として扱い旨が明記されていることからすると、勤務期間が3ヶ月以上の者については人事評価の対象となると理解するのが自然であり、Xの育児休業取得年度である2010年度を人事評価の対象外とすることはできず、Xは2011年度の終了により標準年度4年を経過したのであるから、2012(平成24)年度に昇格試験を受験する資格を得ていたというべきであり、正当な理由なくXに昇格の機会を与えなかったYの行為は違法であるべきであると判断した。これに対しXが控訴した。 - 主文
- 1 本件控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
2 Yは、Xに対し、23万9040円及びこれに対する平成25年3月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 Xのその余の請求(当審における請求を含む。)いずれも棄却する。
4 訴訟費用は、第1、2審を通じてこれを5分し、その3をXの負担とし、その余をYの負担とする。
5 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- (1)について。Yにおける就業規則に添付された育児・介護休業等に関する規定(以下、「育児介護休業規定」と略記する。)9条3項のうち、3ヶ月以上の育児休業をした従業員につき、その翌年度の定期昇給において、職能給の昇給をしないとする部分(以下、「本件不昇給規定」とする。)につき、本件不昇給規定は、1年のうち4分の1にすぎない3ヶ月の育児休業により、他の9ヶ月の就労状況いかんにかかわらず、職能給を昇給させないというものであり、休業期間を超える期間を超える期間を職能給昇給の審査対象から除外し、休業期間中の不就労の限度を超えて育児休業者に不利益を課すものであるところ、育児休業を他の私傷病以外の他の欠勤、休暇、休業の取扱いよりも合理的な理由なく不利益に取り扱うものである。育児休業についてのこのような取扱いは、育児休業を取得するものに無視できない経済的不利益を与えるものであるから、育児・介護休業法10条に禁止する不利益取扱いに当たり、かつ、同法が労働者に保障した育児休業取得の権利を抑制し、ひいては同法が労働者に保障した趣旨を実質的に失わせるものであると言わざるを得ず、公序に反し、無効というべきである。したがって、本件不昇給規定を根拠に2011年度にXを昇給させなかったYの行為は、不法行為上違法というべきである。
(2)について。Yにおいては、評価期間1年のうち勤務期間が3ヶ月以上の者を全て人事評価の対象とすると定めており、Xについても2010年度の人事評価をし、BBの総合評価を下したことが認められ、そうすると、Xは、2011年度の終了により、総合評価Bを取得した年数が標準年数の4年に達したのであるから、2012年度に昇格するための試験を受験する資格を得ていたことが認められ、正当な理由なくXに昇格試験受験の機会を与えなかったYの行為は、不法行為上違法というべきである(一審判断を維持)。 - 適用法規・条文
- 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律10条、民法90条
- 収録文献(出典)
- 労働判例1104号71頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
京都地裁 平成25年(ワ)第774号 | 一部容認、一部棄却 | 2013年09月24日 |
大阪高裁 平成25年(ネ)第3095号 | 一部容認、一部棄却 | 2014年07月18日 |