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K社事件(控訴)

事件の分類
セクシュアル・ハラスメント
事件名
K社事件(控訴)
事件番号
大阪高裁 平成25年(ネ)第2860号
当事者
原告…個人2名、被告…株式会社
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2014年03月28日
判決決定区分
一部容認(原判決一部変更)、一部棄却(上告受理申立)
事件の概要
 水族館の経営等を目的とする株式会社であるY社(第1審被告、第2審被控訴人)の男性従業員であるX1とX2(第1審原告、第2審控訴人)(以下、X1、X2と合わせて「Xら」と略記する。)は、当社女性従員Aに対して度を越えた自身の下ネタ、女性遍歴、性行為等の発言をするなどセクシュアルハラスメント(以下、「セクハラ」と略記する。)行為等を行ったとして、Xらに対し、就業規則に基づく懲戒処分としての各出勤停止処分を行うとともに、懲戒処分を受けたことを理由に、資格等級制度規程に基づき、Xらの等級をいずれもM0課長代理からS2係長に降格した。
 これを受けてXらはY社に対し、Xらはセクハラ行為等を行っていないため懲戒事由とされた事実がなく、また、Xらに対する各処分は手続きの適正も欠き、懲戒事由との均衡を欠く不相当に重い処分であるため、懲戒権を濫用したものとして無効であり、したがって各処分を理由とする各降格は違法であるとして、各処分の無効確認、及びXらがM0の等級を有する地位にあることの確認を求め、不法行為に基づき慰謝料等を請求した。
 第1審では、Xらの行為がY社の就業規則及びセクハラ禁止文書に列挙されている事項に該当するとしたうえで、Xらの行為の悪質性、これによる女性従業員への被害の程度、Xらの役職(「課長代理」)、Y社におけるセクハラ行為防止の取組みに照らし、本件処分が社会通念上相当性を欠くとまではいうことができず、有効であるとし、降格についても、本件処分が有効である以上、人事権の行使として有効であるとして、Xらの請求をいずれも棄却した。これに対してXらが控訴した。
主文
1 原判決を次のとおり変更する。
2 Yが平成24年2月17日付でX1に対してした30日間出勤を停止する旨の懲戒処分が無効であることを確認する。
3 X1が、Yに対し、Yの資格等級制度規程上のM0の等級を有する地位にあることを確認する。
4 Yは、X1 対し、金253万4168円、及びうち金49万2933円に対する平成24年4月18日から、うち金15万5459円に対する同年6月30日から各支払い済みまで年6分の割合による金員を支払え。
5 Yは、X1に対し、平成25年12月から本判決確定の日まで、毎月17日限り、各金9万1600円を支払え。
6 Yが平成24年2月17日付けでX2に対してした10日間出勤を停止する旨の懲戒処分が無効であることを確認する。
7 X2が、Yに対し、Yの資格等級制度規程上のM0の等級を有する地位にあることを確認する。
8 Yは、X2に対し、金165万7913円、及びうち金17万2774円に対する平成24年3月18日から、うち金15万5459円に対する同年6月30日から各支払い済みまで年6分の割合による金員を支払え。
9 Yは、X2に対し、平成25年12月から本判決確定の日まで、毎月17日限り、各金6万1800円を支払え。
10  X1らのその余の請求をいずれも棄却する。
11 訴訟費用は、第1、第2審を通じてこれを6分し、その1を控訴人らの負担とし、その余はYの負担とする。
12 この判決の第4、5、8、9項は仮に執行することができる。
判決要旨
 本件各処分は、本件各懲戒事由が、Y社における就業規則46条3①「会社の就業規則などに定める服務規律にしばしば違反したとき」に該当すること、具体的には、同規則4条(5)の「会社の秩序又は職場規律を乱すこと」、又はセクハラ禁止文書の第2項(以下、「セクハラ禁止条項」と略記する。)において就業規則4条(5に当たる行為として禁止されている①「性的な冗談、からかい、質問」、③「その他、他人に不快感を与える性的な言動」、⑤「身体への不必要な接触」、若しくは⑥「性的な言動により社員等の就業意欲を低下させ、能力発揮を阻害する行為」に該当することを理由としてされたものである。
 セクハラ禁止文書に定めた各禁止条項に合理性があることを鑑みると、本件各処分が有効と認められるためには、本件各対象事実について、それがセクハラ禁止事項に該当するか否かを形式的に検討するだけでなく、他の職員の個人としての尊厳を不当に傷つけ、又は他の職員に対し、その就業意欲を低下させたり、その能力を発揮することの阻害となったりする程の強い不快感を与えるなど、Y社の企業秩序や職場規律の維持の観点から看過し難いといえるか否かを検討する必要があり、その検討に当たっては、懲戒権の行使があくまで企業秩序の維持を目的としたものであることに鑑みれば、当該行為の直接の相手方の主観だけでなく、当該企業の職員構成や企業内容も踏まえつつ、その一般的な職員感覚も考慮することが相当である。
 そのうえで、本件各処分の事実対象のうち、XらがAに対して浮気相手や自らの性欲等に話したこと、Aの収入を訊ねて夜の仕事を勧める発言をしたこと、セクハラ研修後に「あんなん言ってたら女の子としゃべられへんよなぁ」等と発言したこと等は、懲戒事由に該当する行為である。
 しかしながら、Y社が本件各処分の根拠として主張した事実の全てが認められたり、懲戒事由に該当したりするものではなく、この点において、既に本件各処分はその基礎の一部を欠いており、さらにX2の懲戒事由該当行為のうち、事実確認書や事情聴取において言及されていないものがあり、X2に対して弁明の機会が与えられていないから、手続きの適正を欠いていること、Xらが、Aから明確な拒否の姿勢を示されたり、その旨Y社から注意を受けたりしてもなおそのような行為に及んだとまでは認められないこと、加えて、Y社においては、セクハラ防止活動に力を入れていたとはいうものの、一般的な注意以上に、従業員の個々の言動について適切な指導がされていたのか疑問があること、Y社ではこれまでセクハラ行為を理由とするものを含めて懲戒処分が行われたことがなく、具体的にセクハラ行為に対してどの程度の懲戒処分を行う方針であるかを確認する機会がなかったこと等を考慮すると、事前の警告や注意、更にY社の具体的方針を認識する機会もないまま、突如懲戒解雇の次に重い出勤停止処分を行うことは、Xらにとって酷にすぎるというべきである。以上からすると、本件各処分は、その対象となる行為の性質・態様等に照らし、重きに失し、社会通念上相当とは認められず、本件各処分につき手続きの適正を欠く旨のXらの主張について判断するまでもなく、権利の濫用として無効である。
 最後に、不法行為の成否について、本件各処分及び本件各降格はいずれも無効ではあるが、懲戒事由自体は認められ、どのような懲戒処分とするかについての指針・基準を設けておらず、適正な先例もないY社においては、出勤停止を選択したことや、懲戒処分にしたことを前提として本件各降格をしたことが、不法行為上違法とまでいうことはできないし、少なくとも過失があるということはできない。したがって、Xらの不法行為に基づく損害賠償請求は、失当である。
適用法規・条文
民法709条
収録文献(出典)
労働判例1099号33頁
その他特記事項
本件は上告された。