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Y社事件(地裁)

事件の分類
賃金・昇格
事件名
Y社事件(地裁)
事件番号
金沢地裁 平成23年(ワ)第658号
当事者
原告…個人(従業員)、被告…株式会社
業種
製造業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2015年03月26日
判決決定区分
一部容認、一部棄却
事件の概要
 X(原告)は、1987(昭和62)年4月13日に、期間の定めのない労働者として機器・環境産業機械関連設備等の設計施工等を業とする株式会社Y(被告)に雇用された女性である(本訴提起後の2012[平成24]年1月20日に定年退職した)。
 Yは、2002(平成14)年6月頃までに、従前の男女別の賃金制度に代えて、本給(年齢給及び職能給)の賃金表を総合職と一般職とに分けて設定する賃金制度(以下、「本件コース別雇用制」と略記する。)を導入した。この点、1999(平成11)年6月24日付けでYにおいて発出された通達には、「総合職=職種転換および転勤ができる職種をいう(従前の男子)」、「一般職=基本的には転勤ができず、限定された職種をいう(従前の女子)」との記載があり、2002年5月24日付けで発出された通達には、「一般職とは、専門的分野において業務遂行能力を有し、原則として採用時の職種に限定され、転勤はない…現在の、女子採用条件です」、「総合職とは、総合的視野に基づいて1判断できる能力を有し…職種転換・出張・転勤の可能な者を指す…管理職」との記載がある。なお、本件コース別雇用制導入時、Yの男性従業員は全員が総合職となり、女性従業員は全員が一般職となり、Xは、本件コース別雇用制導入時から定年退職するまで、一般職として処遇された。
 その後、2012(平成24)年6月1日から改訂施行されたYの就業規則においては、勤務成績が優良である、所属長の推薦があるなどの条件が揃い、面談試験にも合格すれば、一般職として採用された従業員でも希望により総合職に転換できる旨の規定が新設された。また、2013(平成25)年4月1日付けで、Yで初めての女性の総合職従業員が採用された。
 これに対し、Xは、Yにおいて本件コース別雇用制が導入されて以降は、YはXに総合職の賃金表を適用すべきであったのに一般職の賃金表を適用してきたとし、不法行為による損害賠償請求権に基づき、損害賠償金として総合職と一般職の賃金差額相当額、慰謝料等を請求して提訴した。
主文
1 Yは、Xに対し、328万円及びこれに対する2011年12月10日から支払済みまでの年5分の割合による金員を支払え。
2 Yは、Xに対し、6万672円及びこれに対する2011年12月10日から支払済みまでの年6分の割合による金員を支払え。
3 Yは、Xに対し、6万672円及びこれに対する本判決確定日の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 Yは、Xに対し、101万6266円及びこれに対する2012年3月21日から支払済みまでの年6分の割合による金員を支払え。
5 Xのその余の主位的請求をいずれも棄却する。
6 Xの予備的請求を棄却する。
7 訴訟費用はこれを5分し、その1をYの負担とし、その余をXの負担とする。
8 この判決は、第1項、第2項及び第4項に限り、仮に執行することができる。
判決要旨
 YがXに対し総合職の賃金を支払わないことの違法性につき、労働基準法4条は、「使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない。」と定めている。
 労働基準法は、性別を理由とする賃金差別を禁止した規定であり、使用者が男女別の賃金表を定めている場合のように、男女間に賃金格差が生じており、かつ、それが性別の観点に由来するものと認められるときには、男女の労働者によって提供された労働の価値が等しいかを問うまでもなく、同条違反を構成するものである。そして、この理は、賃金表に男性や女性といった名称が用いられていない場合であっても、実態において男女別の賃金表を定めたのと異ならない態様で複数の賃金表が適用されているときにも同様に当てはまると解すべきである。
 本件コース別雇用制においては、総合職と一般職とで異なる賃金表が適用されているところ(特に年齢給については、年齢という要素だけで、両者の間で相当の差額が生じる。)、この総合職と一般職の区別が、事実上、性別の観点からされていたのであれば、実態において男女別の賃金表を定めたのと異ならない態様で複数の賃金表が適用されていたものとみるほかないのであり、このような実態は労働基準法4条に違反するものと言わざるをえない。
 これについて本件を検討すると、本件コース別雇用制導入時の従業員の振り分けは、総合職及び一般職のそれぞれの要件に従って改めて行われたものでなく、総合職は従前の男性職からそのまま移行したもの、一般職は女性職からそのまま移行したものであり、その状況が本件提訴後まで継続していたと理解でき、本件コース別雇用制における総合職と一般職の区別は、結局のところ、男女の区別であることが強く推認されるというべきである。

 もっとも、コース別雇用制の導入に当たって、合理的なコース別転換の制度が用意されていたのに、結果的に総合職となった女性がいなかったにすぎないのであれば、女性従業員にも総合職になる機会はあったのであるから、総合職と一般職の区別が事実上男女の区別であったということはできない。しかしながら、本件コース別雇用制の導入時の制度では、一般職従業員はその職能等級上の最高位である課長のさらに上位である次長まで昇格しなければ総合職に転換することができなかったのであり、コース転換には非常に高い条件が付されていたというほかない。また、本件コース別雇用制が導入された頃のXの業務内容は、一般事務の範疇にとどまるものとはいえなかったところであり、Xに対して総合職として処遇できない具体的理由が説明されてしかるべきであったところ、Xに対してそのような対応がされたことを示す事情も全く見当たらない。
 このように、本件コース別雇用制は性別管理から移行したものであるのに、合理的なコース転換制度も、具体的なコース転換の勧試もなかったことからすると、本件コース別雇用制における総合職と一般職の区別は、少なくとも合理的なコース転換制度が就業規則上明記された2012年6月までは、男女の区別、すなわち、実態において性別の観点によってされており、Xはそのような観点からそのまま一般職と処遇されたと認めるのが相当である。
 これに対し、Yは業務遂行能力の評価という観点から本件コース別雇用制における総合職と一般職の振り分けが適切になされている旨を主張する。しかし、本件コース別雇用制の導入時に、YにおいてXの業務遂行能力がどの程度であるかが検討されたことを示す証拠はなく、従ってXの業務遂行能力を検討した結果としてXを一般職に振り分けたことを示す証拠もない。本件においては、本件コース別雇用制の導入時にどのような理由からXが一般職に振り分けられたのか(女性であるからという疑いを排斥するに足る合理的理由があるか)が検討されるべきであるところ、本件コース別雇用制導入時にXの業務遂行能力の程度が検討された形跡がない以上、YがXの業務遂行能力が低い旨を主張しても、それが本件コース別雇用制導入時にXが一般職に割り振られた理由であったと認定することは困難である。
 以上のとおりであるから、本件コース別雇用制における総合職と一般職の区別が、実態において男女の区別であったとの推認を覆すだけの事情は認められず、Yにおいては実質的に男女別の賃金表が適用されていたということができ、それを特段の検討も加えることもなくそのままXに適用したものであって、かかる取扱いは労働基準法4条に違反するものというべきである。そしてこの点につき、Yには少なくとも過失が認められる。したがって、Yは、Xに対し、上記不法行為によって生じた損害を賠償する責任を負う。
適用法規・条文
労働基準法4条・13条、民法709条
収録文献(出典)
労働判例1128号76頁
その他特記事項
その他、主位的に時間外労働賃金の未払い分の請求、予備的に不当利得返還請求権に基づく賃金差額の請求等をするも、いずれも棄却された。但し、Yの不法行為に基づくXの退職金差額、及び遅延損害金の支払いは認められた。