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F社事件(地裁)

事件の分類
賃金・昇格
事件名
F社事件(地裁)
事件番号
東京地裁 平成21年(ワ)第43218号
当事者
原告…個人、被告…株式会社
業種
製造・販売業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2014年07月18日
判決決定区分
一部容認、一部棄却
事件の概要
 F(被告)は、衣料用繊維製品及び寝具、インテリア用品の製造並びに販売等を目的とした株式会社であり、X(原告)は1988年(平成元年)5月26日付けでFに入社し、2009(平成21)年5月9日にYを定年退職するまで婦人服部門、子供服部門においてデザイナー等として勤務した女性労働者である。
 Xは在職中、Xが女性であることを理由として、賃金(基本給及び各種手当を含む。)及び賞与が男性従業員よりも不当に低く抑えられてきたため、本来Xが受けるべきであった2007(平成18)年5月分以降の月例賃金(基本給、職務給、役職手当)、住宅手当、時間外割増手当、退職金、賞与の額と実際にXが支給された額との格差額相当額、年金差額相当額等につき損害を被ったとして、不法行為に基づく損害賠償等を求めた。
主文
1 Yは、Xに対し、55万円及びこれに対する平成21年5月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 Xのその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを29分し、その28をXの、その余をYの各負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
判決要旨
 Fにおいては、男女従業員の間で、基本給及び職務給の上昇の程度並びに役職手当の支給状況において、差が生じている。この差は夏季・冬季賞与の額にも反映されることになる。他方、Fでは、Xの入社から退職までの期間を通じ、営業職は男性が、企画職は女性がそれぞれほぼ全員が占めており、職種間で著しい男女比の偏りが見られる。
 こうした点を踏まえると、Fにおける男女従業員間の賃金等の支払状況の差異(格差)が、Fによる不法行為を構成する違法なものであるか否かを検討するに当たっては、上記差異が、営業職と企画職の職務の違いに基づく差異として合理的なものであるか否かを検討するべきである。
 Fにおける賃金決定過程は、諸要素を考慮するものの、最終的にはF代表者の判断で決定している部分が大きいものである。
 企業として、いかなる点を重視して従業員にインセンティブを与えるべきか、という事柄は、当該企業の経営判断に属するものであり、当該企業の経営方針に照らし、一定の職種によりインセンティブを与えるという方針の下で給付決定をすること自体は、それが職種の違いを踏まえても合理性を有しない不当な差別にわたると評価される場合に該当しない限り、違法とされるものではないというべきである。そうすると、本件においては、Fの事業の具体的な在り方を前提に、営業職及び企画職の従業員が従事する具体的な職務内容等を比較検討した上で、格差が職種の違いを踏まえても合理性を有しない不当な差別にわたるものといえるかどうかをみる必要がある。
 (1)基本給、職務給及び夏季・冬季賞与について。営業職と企画職は、製品の企画、受注、発注、及び販売の各場面において、相互に重要な役割を果たしていると評価できる。そのため、企画職が、営業職との関係で当然に補助的な業務であるということはできない。
 しかし、Fの取扱製品(衣類)は、普段着として着用されることを前提としたものであり。デザイナーとしては、定番の製品に多少の変化を加えることまでは求められているものの、独自性のあるデザインを行うことまでは求められておらず、Fは、商品自体の魅力で販売することを指向しているのではなく、一定の集客が見込まれる店舗に商品を置き、多くの客の目に触れることで販売の機会を確保しているということができる。
 このようなFの業務の在り方に照らすと、営業職の者の決算賞与を含めた賃金について優遇することも、経営上の一つの判断ということができ、これが直ちに合理性を有しないということはできない。
 以上を踏まえると、Fにおける基本給、職務給及び賞与における従業員間の差異は、性別に由来するものでなく、職務の違いに基づくものというべきであって、それが合理性を有しないとはいえない。
 (2)(1)以外の各費目について。(ア)役職手当につき、営業職に比べると、企画職の従業員に対する支給開始時期が遅いことが窺われるが、企画職については、男女従業員及び女性従業員(X)の支払い時期に勤続期間にして8年もの差異があり、企画職の男女の従業員間においてこれほどの差を設ける必要があるほど、従業員の能力等に顕著な差異があることも窺われないから、上記支給開始の差は、合理性を欠くものと言わざるをえない。
 (イ)住宅手当及び家族手当につき、職種の違いを問題とせず、男性従業員と女性従業員に対し、性別のみを理由として異なる取扱いをし、女性従業員に不利な結果をもたらしていたのであるから、その差異は、不合理なものであったといわざるを得ない。
 以上のように、(ア)(イ)に関するXに対する取扱いについては、Xの性別に基づく不合理な取扱いであって、違法性が認められる。
適用法規・条文
民法709条・710条、労働基準法4条
収録文献(出典)
労働経済判例速報2227号9頁
その他特記事項
Yの不法行為によってXが性別により差別されないという人格権を侵害されたものであり、これによりXが精神的損害を被ったとして、慰謝料として50万円が認められた。