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Y電機事件(地裁)

事件の分類
雇止め
事件名
Y電機事件(地裁)
事件番号
鳥取地裁 平成25年(ワ)第68号
当事者
原告…個人、被告…株式会社
業種
製造・販売業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2015年10月16日
判決決定区分
棄却
事件の概要
 Y(被告)は、電気・通信・電子及び照明機械器具の販売・製造等を目的とする株式会社であり、2012(平成24)年4月、三洋電機コンシューマエレクトロニクス株式会社(以下、「鳥取三洋」という。)を吸収合併し、鳥取三洋における事業をYの一部門とした(以下、上記吸収合併前の鳥取三洋を「Y」ということがある。)
 X(原告)は、1984(昭和59)年6月20日頃、鳥取三洋との間で、契約期間を1年間とする雇用契約(終期は6月20日)を締結した労働者である。Xは雇用契約(以下、「本件雇用契約」という。)の更新を重ね、前記の吸収合併により、鳥取三洋との雇用契約はYに承継された。なお、本件雇用契約当時Xは準社員として雇用されたが、1992(平成4)年12月、新準社員となった。
 YはXに対し、2006(平成18)年6月20日より前に、雇用期間を同月21日から2007(平成19)年6月20日までと定めた契約書を提示し、Xは、これに署名・捺印したうえ、Yに提出した。
 YはXに対し、2006年7月11日付で、契約期間を同月21日から2007年6月20日まで、業務内容をF社に出向し、出向先における清掃業務とする労働契約を提示したが、Xは、これに署名・捺印しなかったのにもかかわらず、Yの事業施設の清掃業に従事し、給与の支払いを受けた。
 YはXに対し、2007年6月20日よりも前に、雇用期間を同月21日から2008(平成20)年6月20日までと定めた契約書を提示したが、Xは、弁護士を通じて出向先の清掃業務とされた業務内容、及び基本給について不服を述べ、労働の意思を示しつつもこれに署名・捺印しなかった。
 Xは2007年6月21日にYから雇止めを受けるも、同年7月5日から、清掃業務を再開した。
YはXに対し、時期は不詳であるが、雇用期間を2009(平成21)年6月21日から2010(平成22)年6月20日までと定めた契約書を提示したが、Xは、署名・捺印をせず、この間、清掃業務に従事した。
 Yは、Yの一部門を2013(平成25)年1月1日付けでテガ三洋工業株式会社(以下、「テガ三洋」という。)に事業譲渡し、原則として鳥取から撤退することとし、2012年10月15日頃、従業員説明会を開いた(以下、「本件従業員説明会」という。)。Yは、本件従業員説明会において、鳥取地区における事業部門で雇用されることを望む者はデガ三洋の転籍に応募する必要があり、転籍ができない場合等には、早期退職優遇制度を利用するか、再配置・他部門への異動をすることとなる旨を説明した。これに対し、Xは、テガ三洋の転籍の公募に応募せず、早期退職優遇制度を利用しなかった。
 Xの出向先であったF社は、Yに対し、2012年12月5日付けで、同月末日付けでXの出向解除を依頼し、これを受け、Yは同出向を解除し、Xに対し、2013年1月より自宅待機を命じた。Xは、同年1月8日付けで、Yからの連絡に応じて、応募書類を作成し、Yほかの合弁会社であるH社と数回面談した。H社は、合計62件の出向先調査をしたが、Xの受入先を確保できなかった。
 Yは、Xに対し、2013年2月28日付けで雇用契約終了通知と題する書面を、同年3月
22日付けで雇用契約終了の件と題する書面をそれぞれ交付し、2013年3月31日をもって雇用契約が満了すること及び次回の契約更新をしないことを通知した(以下、同年3月22日付けのものを「本件雇用契約終了通知」という。)。
 これに対しXは、YのXに対する解雇ないし雇止め(以下、「本件雇止め」という。)は無効であるとして、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、ならびに2013年4月から判決確定日までの賃金等の支払いを求めて本件を提訴した。
 本件の争点は、(1)本件雇用契約終了通知の雇用契約に期間の定めがあったのか、(2)仮にあったとして、その終期は2013年3月末日であったのか、(3)及び(4)仮に本件雇用契約終了通知が雇止めであるとされた場合、労働契約法19条1号、2号のいずれかに該当するのか、(5)仮にいずれかに該当するとなった場合、本件雇止めが権利濫用にあたり無効となるのか、(6)予備的に、契約期間の終期が2013年6月20日であった場合における雇用契約の終了の有無である。
主文
1 Xの請求のいずれも棄却する。
2 訴訟費用はXの負担とする。
判決要旨
 (1)について。XとYの間で、2006年6月21日から2007年6月20日までを雇用期間とする雇用契約を締結したこと、同月21日以降の労働につき、Yから契約書の提示があった場合における契約書の内容はいずれも1年契約であったこと、Xが対象となる就業規則においても1年契約が予定されていたこと、Xは、契約期間について不服を述べずに、本件雇用契約終了通知まで、1年を契約期間とする契約であることを前提として労働に従事し、Yは、これに対し給料を支払ってきたことから、XとYとの間において、Yから契約書の提示がありXが署名捺印したときには明示的に、そうでないときいは黙示的に、契約期間を1年とする雇用契約を締結してきたと認めるのが相当である。
(2)について。Yが2012年3月30日までには、鳥取三洋の吸収合併に際し、契約の終期を同月31日とし、Xに対し、その他の雇用条件の変更点について説明したが、Xは、契約の終期を同日とすることについては問題視することなく、同年4月1日以降も労働に従事し、給料の支払いを受けたのであるから、遅くとも同日までには、XとYとの間において、契約期間を2012年4月1日から2013年3月31日までとする雇用契約を締結したことが認められる。
 (3)及び(4)について。以上の検討の通り、XとYとの間の雇用契約終期は2013年3月31日であるから、本件雇用契約終了通知の法的性質は、雇用契約期間満了に伴う雇止めということになる。以上を前提に、労働契約法19条1号、2号の適用について検討する。  
労働契約法19条1号該当性につき、2006年6月21日以降の雇用契約の更新に際し、Yは、その大部分において、契約書により契約期間を1年とする雇用契約を締結し直そうとし、また、Xの出向等により雇用条件が変更する場合には、契約書を提示し直すなどしていたことが認められる。このように、XとYとの間の雇用契約は、約30年にわたり更新されてきたものの、契約期間満了の都度、雇用契約を締結し直すことにより、雇用契約を更新してきたことが認められるのであるから、本件の雇用契約を終了させることについて、期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できるとまでいうことは困難であり、労働契約法19条1号該当性は、これを否定せざるを得ない。
労働契約法19条2号該当性につき、XとYは、約30回にわたり雇用契約を更新し続けてきたこと、他の新準社員が雇止めされた例が認められないこと、Xの業務内容が正社員のそれと比べて特段臨時性ないし特殊性が認められるものではないことから、Xには、上記雇止めがされた時点において、雇用が継続されることへの合理的期待が生じていたというべきであり、労働契約法19条2号の該当性が認められる。
(5)について。本件雇止めが、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」といえるか(労働契約法19条柱書)が問題となるところ、既に検討した通り、Xには、雇用契約の更新の合理的期待を有していたといえるし、本件雇用契約は、約30年にわたり更新されてきたものであるが、他方、その更新の大半において、Yは、契約書を作成し直しているし、労働条件が変更するごとに契約書を作成しXに提示してきており、更新手続きは厳格であって、契約書の文言上にも、当然には更新することが予定されているとはいえないこと、Yの鳥取地区における事業は縮小の一途をたどっていたことから、雇用契約の更新に寄せられる期待の合理性は相対的には減弱していたと評価すべきである。そうすると、本件雇止めにおいては、その理由自体に強度の合理性が要求されるべきとはいえず、Xから寄せられる上記期待に見合った程度の合理性さえ欠くといった場合において初めて、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」場合に該当するというべきである。
そこで、Xが主張する、本件雇止めに合理的な理由がないことを基礎付ける事由について検討してみるに、テガ三洋への事業譲渡は単なる事業移管に過ぎず、人員削減の必要性がなかったなどと断ずることはできず、またテガ三洋への転籍後の雇用条件不明確などとは到底いえないこと、そして、退職金の額については、Yが経営状況等を踏まえて裁量的に提示できるものであり、Yの提示した退職金の額をもって雇止め回避の努力が不十分であったことの微表と評価することはできないこと等、また、雇止めまでの手続の点につき、Yは、本件雇用契約終了通知の5ヶ月以上前である2012年10月に本件従業員説明会を開き、Xを含めた従業員に今後の雇用の方向性及び選択肢等について説明をし、出向以外に選択の余地がなくなった段階においては、Xが鳥取地区における勤務を希望していることを受けて鳥取地区内の出向開拓を検討し、その経過について、労使協議会において報告し、労働組合の要望に応じ、出向開拓を続けてきたことが認められるので、雇止めまでの手続に不合理な点があるとはいえないことから、本件雇止めが無効であるということはできず、Xの雇用契約は、2013年3月末日で終了したというべきである。
(6)について。以上の検討によれば、(6)を検討するまでもなく、XがYにおける労働契約上の権利を有する地位があるとは認められず、また、2013年4月以降の未払い賃金も認められない。
適用法規・条文
労働契約法19条1号、2号
収録文献(出典)
労働判例1128号32頁
その他特記事項
本件は控訴された。