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Y航空会社客室乗務員解雇事件(控訴)

事件の分類
解雇
事件名
Y航空会社客室乗務員解雇事件(控訴)
事件番号
東京高裁 平成24年(ネ)第3458号
当事者
原告…従業員76名、被告…航空会社
業種
運輸・通信業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2014年06月03日
判決決定区分
棄却
事件の概要
 Y(一審被告、二審被控訴人)は国際旅客事業、国内旅客事業等を営む株式会社であり、X(一審原告、二審控訴人)らは客室乗務員としてYに勤務していた労働者である。2010(平成22)年1月19日、Yからの申立てに基づく会社更生手続き開始決定を受けて選任された更生管財人Cらは、事業規模を大幅に縮小するなどの更生計画案を策定し、同年8月31日に更生裁判所に対してこれを提出した。同計画案では人件費を含むコストの削減が計画され、債権者96%以上の賛成を得て、同年11月30日に更生裁判所によって認可された。
 2010年3月以降、合計6回にわたる希望退職措置を実施したが、必要な人員削減に達しなかったことから、Cは整理解雇を実施することとした。同年12月9日にYは解雇予告通知をし、Xらは同年12月31日に解雇された(以下、「本件解雇」とする。)。そこで、Xらは労働契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求めて提訴した。
一審は本件解雇を有効なものと判断し、Xらの請求を退けた。これに対しXらが控訴した。
主文
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
判決要旨
(1)整理解雇法理の適用について。
 会社更生手続きは、事業の継続を前提としており、更生管財人が継続する事業において労働契約上の使用者としての地位を継承するものであること、更生管財人が、労働契約法などの規定の定める要件によらずに労働契約を解除することができる旨を定める法の規定がないことから、更生手続き下で更生管財人がした整理解雇については、整理解雇の法理が適用されるものと解される。
(2)人員削減の必要性について。
 整理解雇法理における人員削減の必要性という要素は、解雇の時点において破綻に至っていない企業の場合、債務超過など高度の経営上の困難から人員の削減が必要であり、企業の合理的な運営上やむを得ないものとされるときには、これが存在すると解される。これに対し、Yの場合においては、本件解雇前、いったんは破綻状態にあって、更生会社の事業の維持更生を目的とする本件会社更生手続き開始決定がなされ、本件更生計画が遂行されて事業の維持更生が図られることがなければ破綻が避けられなかったのであって、破綻原因を除去して更生計画を確実に遂行できる業務体制の確立を図るものとして、そのために必要な諸政策を練り込んで更生計画案が作成されるべきことに十分配慮した上で判断するのが相当である。
 管財人のした本件解雇に係る客室乗務員の人員削減の実施は、Yの事業を維持更生するという会社更生法の目的にかんがみ、更生会社であるYの本件更生計画の基礎をなす本件事業再生計画に照らし、その内容において合理性のあることが認められ、本件解雇はYを存続させ、これを合理的に運営する上でやむを得ないものとして、その人員削減の必要性が認められる。また、整理解雇に訴えてでも人員削減施策を完遂させる方針を管財人が表明したことを受けて、初めて更生計画案への賛成票が法定多数に達したという経緯を鑑みると、管財人が2010年11月12日の時点において希望退職者が目標値に達しない場合には整理解雇も辞さないとの基本方針を決定して、同月15日これを正式に発表したことについても、やむを得ないものと認められる。
これに対し、Xらが主張する2010年以降の好調な営業実績、人件費削減の超過達成等は、本件解雇について、人員削減の必要性が認められるとの認定判断や管財人の経営判断の合理性を左右するに足りるものではない。
 本件解雇の時点で更生計画上の人員体制が既に達成されていたため、人員削減の必要がないというXらの主張は、基礎となる数値の正確性に疑問のあるほか、更生計画を上回る営業利益などによる財務状況の改善を考慮に入れても、直ちに本件解雇に係る人員削減を実行する必要性を覆すには足りないというべきである。
 以上によれば、本件解雇は無効であるとは認められないから、Xらの請求はいずれも理由がないものと認められる。よって、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからいずれも棄却することとする。
適用法規・条文
労働契約法16条
収録文献(出典)
労働法律旬報1819号39頁
その他特記事項
本件はXらによって上告・上告受理申立てがなされたが、上告棄却、不受理となった(最二小決平成27・2・4)。