判例データベース
元従業員ほかセクハラ行為事件
- 事件の分類
- セクシュアル・ハラスメント
- 事件名
- 元従業員ほかセクハラ行為事件
- 事件番号
- 名古屋高裁 −平成 26年(ワ)第39号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 個人1名、株式会社3社 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2015年08月18日
- 判決決定区分
- 棄却
- 事件の概要
- Y4社(I株式会社-被告)は、プラスチックパッケージ基板等の製造及び販売等を事業内容とする株式会社であり、本店・支店のほか事業場等があり、傘下には39社のグループ会社がある。Y1(個人-被告)は、Y4社のグループ会社として設立されたY2社(I建装株式会社-被告)の社員であった。X(原告)は、2008(平成20)年11月頃、Y4社のグループ会社であるY3社(株式会社Iキャリア・テクノ-被告)に契約社員として採用され、Y4社の事業場の一つの敷地内にある建材工場において、壁面用ボードの採寸、裁断、研磨等を行い、それらの作業結果をチェックするなどの業務(以下、「本件ライン」という。)に従事した。
X、Y1及びJ(Y4社の契約社員)らは、工場内の休憩室で雑談するグループメンバーであったところ、XとY1は、2009(平成21)年9月頃までにメールアドレスを交換し、同じ頃から両者の交際が始まった。XとY1は毎日のようにメールのやり取りをし、そのメールの内容はXのY1に対する深い恋慕の情をうかがわせるものであった。XとY1は同年11月頃から12月頃にかけてドライブに出掛け、2010(平成22)年1月頃には電車で初詣に出掛けるなどしたほか、就業後にはお茶を飲むなどして交際を重ね、自動車内やホテル、Y1の自宅で性交渉をするなどした。
Xは2010年7月末頃、Y1の携帯電話に電話をかけ、一方的に交際関係の解消を告げ、Y1が理由を尋ねてもXは何も答えず電話を切った。Xが交際関係解消の理由を説明しないことからY1は一度ゆっくり話し合った方がよいと考え、同年8月7日頃にXの自宅を訪問した。最初にY1に対応したのはXの実母であり、Y1は自己紹介の上、上記の経緯を説明したところ、Xの実母はXに玄関先に出てくるよう呼んだがXは出てこず、代わりにXの長女が出てきたことからY1が長女にXに会いたい旨を伝えたところ、長女は「母が怖がっています。」「母に近づかないでください。」などと話すにとどまった(イ)。
Y1は最後に自分の気持ちだけは伝えておきたいとの思いから、Xの自宅を訪問した数日後、工場内においてXに手紙を交付した。その内容は「まさか、こんなにあっけなく終わりがくるとは」、「夢ちん(Xの長女のこと-編注)に『母が怖がってます。』『ちかずかないでください』の言話で気づきました(原文ママ-編注)。」、「今でも心の中で思っています。」などというものであった(ロ)。
Xはこれらに加え2010年8月頃Y1が就業時間中に一日何度も本件ラインで流れ作業をしているXのすぐ隣に来て話しかけ、「また付き合ってくれ」などとしつこく交際を要求し(ハ)、同年10月頃平日夜間及び週末に少なくとも10回ほどXの自宅付近に自動車を停め(ニ)、2011(平成23)年1月10日頃にはXの自宅付近に長時間自動車を停車させる(ホ)等を行った(これらを併せて「本件セクハラ行為」という。)。XはこれらのY1の言動によって何度も作業を中断させられ、身体的に不調を来すまでの精神的苦痛や不快感を被ったことから、Y1に対し不法行為に基づく損害賠償を請求した。また、本件セクハラ行為にかかるY1のXに対する不法行為につき、Y4社は使用者責任として損害賠償義務を負担すべきなどとして本件訴訟を提起した。
本件の主な争点は、(1)Y1のXに対するセクハラ行為の有無及び不法行為の成否、(2)本件セクハラ行為にかかるY4社の責任原因である。 - 主文
- 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 - 判決要旨
- (1)について。XとY1の交際関係につき、両者が2009年9月頃から2010年7月末頃までの間、性交渉を伴う親密な交際関係にあったものと認められることは明らかであって、交際経過を示す写真やXがY1に送信したメール等のすべてがXの真意に反するものでY1の要望に迎合したものにすぎないなどとするXの主張を採用する余地はまったくない。
上記判断を前提に本件セクハラ行為の有無につき検討する。本件セクハラ(イ)ないし(ハ)について、Xから交際関係の解消を告げられ、あいまいな理由しか把握できずにいたY1が明確な理由を求めるのではなくXが主張するようにXに執拗に付きまとって交際を求め続けたなどということ自体が不自然、不合理であるし、Y1がXに交付した手紙はXからの交際関係の解消の告知を受け容れて、Xとの離別を乗り越えていく意思を表明したものと理解すべき内容である。また、Y1が工場内で頻繁にXに付きまとっていたとするXの主張はY1の業務遂行状況と整合せず、Y1がXに付きまとう状況を見ていたなどとする証人Dの供述も、工場内における視野ないし見通しに関する客観的状況に反する。さらに、2010年8月以降にXが休養室で休憩したのは、体調不良(生理・喉の痛み等)を理由とする同月3日の1回のみであること、同年10月頃には実母の看病のために年次休暇を取得することがあったことが認められるものの、これらを越えてXが体調を悪化させていたことなどはまったくうかがわれない。加えて、Y1によるXの自宅訪問時の状況についても、2010年8月7日頃までにXをしてY1による粗暴な言動等を畏怖、警戒させるような経緯や事情が存したことはまったくうかがわれないことを踏まえると、Xの主張するように激しく粗野な言動をY1がしたということ自体が唐突で不自然、不合理である。
本件セクハラ(ニ)及び(ホ)について、Y1がこれらの行為をしたことをうかがわせる客観的な証拠は存在せず、Y1が本件セクハラ(ニ)及び(ホ)をしたものと認めることはできない。
以上のとおりであるから、XのY1に対する請求は理由がない。
(2)について。Y1による本件セクハラ行為が認められないのは判断したとおりであるからY4社が使用者責任を負担することなく、雇用契約上の安全配慮義務違反ないし措置義務違反を内容とする債務不履行に基づく損害賠償義務を負担することはない。したがって、Y1の責任原因にかかるXの主張に理由がない。
よってXの請求はいずれも理由がないことからこれらを棄却する。 - 適用法規・条文
- 民法709条、710条
- 収録文献(出典)
- 労働判例1157号74頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
名古屋高裁 −平成 26年(ワ)第39号 | 棄却 | 2015年08月18日 |
岐阜地裁大垣支部 − 平成27年(ネ)第812号 | 一部認容、一部棄却 | 2016年07月20日 |