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I事件(未払賃金請求事件)

事件の分類
その他
事件名
I事件(未払賃金請求事件)
事件番号
一審 東京地裁−平成28年(ワ)第133227号
当事者
原告 個人
被告 株式会社
業種
卸売業・小売業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2017年10月16日
判決決定区分
請求一部認容、一部棄却
事件の概要
原告Xと被告Yとは、平成26年1月6日,期間の定めのない雇用契約を締結し、勤務時間は午前9時から午後6時まで(休憩時間は正午から午後1時まで)、賃金は23万円(平成26年4月16日以降は26万円)とされていた。従事する業務について,本件雇用契約では、事業推進のためのアシスタント兼PRアシスタント業務と定められ、実際には、Xは、Yの社長の業務及び社長が経営する関連会社の業務全般についてサポート業務に従事していた。
 Yでは、労働時間をタイムカードにより管理し、Xの給与明細には、時間外、深夜労働時間数が記載され、時間外労働時間数が月80時間を超えた場合や、深夜労働をした場合には、割増賃金が支払われていた。Xは、平成27年5月31日にYを退職した。
本件は、Xが、Yに対し、在職中の未払の時間外労働の割増賃金と深夜労働の割増賃金(合計205万0194円)及び遅延損害金の支払いを求めるとともに、労働基準法114条に基づく付加金の支払いを求めた事案である。
主文
1 Yは,Xに対し,8366円及びうち8025円に対する平成27年6月1日から,うち29円に対する同月26日からそれぞれ支払済みまで年14.6パーセントの割合による金員を支払え。

2 Xのその余の請求をいずれも棄却する。

3 訴訟費用はXの負担とする。
判決要旨
本件雇用契約においては,80時間分の固定残業代として,平成26年1月から同年4月支給分までは8万8000円を支給し,同年5月から平成27年6月支給分までは9万9400円を支給すると定められ,これに基づき固定残業代が支給されていたものと認められる(なお,被告の賃金規程(乙3)第12条にも,固定残業代に関する定めが存在するものの,同賃金規程が原告を含む従業員に対し,周知されていたと認めるに足りる証拠はない。)。
 Yにおいては,タイムカードにより従業員の出退勤時間を管理し,これに基づいて,毎月,給与明細に時間外,深夜労働時間数を記載しているところ,Xについても,タイムカードに記載された出退勤時間に基づく時間外,深夜労働時間数と給与明細に記載された時間外,深夜労働時間数とは概ね一致している上,Yは,給与明細に記載された時間外労働時間(ただし,そこからYが固定残業代の対象と主張する1か月80時間の時間外労働を控除した時間)及び深夜労働時間について,残業手当及び深夜手当を支払っているのであるから,少なくとも上記時間数については,Y自らXの実労働時間として承認していたものと解される。

 本件雇用契約においては,80時間分の固定残業代として,平成26年1月から同年4月支給分までは8万8000円を支給し,同年5月から平成27年6月支給分までは9万9400円を支給すると定められ,これに基づき固定残業代が支給されていたものと認められる。
 Xは,Yが主張する固定残業代の対象となる時間外労働時間数は,本件告示第3条本文が定める限度時間(1か月45時間)を大幅に超えるとともに,いわゆる過労死ラインとされる時間外労働時間数(1か月80時間)に匹敵するものであるから、かかる固定残業代の定めは公序良俗に反し無効であると主張するが,1か月80時間の時間外労働が上記限度時間を大幅に超えるものであり,労働者の健康上の問題があるとしても,固定残業代の対象となる時間外労働時間数の定めと実際の時間外労働時間数とは常に一致するものではなく,固定残業代における時間外労働時間数の定めが1か月80時間であることから,直ちに当該固定残業代の定めが公序良俗に反すると解することもできない。
適用法規・条文
労働基準法37条
収録文献(出典)
労働判例1190号16頁
その他特記事項
なし。