判例データベース
M社(損害賠償等請求)事件
- 事件の分類
- 賃金・昇格
- 事件名
- M社(損害賠償等請求)事件
- 事件番号
- 東京地裁 平成26年(ワ)第10806号
- 当事者
- 原告…個人、被告…企業
- 業種
- 運輸業、郵便業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2017年03月23日
- 判決決定区分
- 一部認容、一部棄却
- 事件の概要
- 本件は、被告Y社の契約社員として期間の定めのある労働契約(以下「有期労働契約」という。)を締結し、C内の売店で販売業務に従事してきた原告X1~X4(以下、まとめてXら)が、期間の定めのない労働契約を締結しているY社の従業員がXら同一内容の業務に従事しているにもかかわらず賃金等の労働条件においてXらと差異があることが、労働契約法20条に違反しかつ公序良俗に反すると主張して、不法行為又は債務不履行に基づき、平成23年5月分から退職日(在職中のX1については平成28年9月分)までの差額賃金(本給・賞与、各種手当、退職金及び褒賞の各差額)相当額、慰謝料及び弁護士費用の賠償金並びに褒賞を除く各金員に対する支払期日以降(一部については訴え提起日以降)の民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
Xらは、いずれも契約社員Bの区分の従業員としてY社に採用され、期間1年以内の有期労働契約を反復更新して、Y社のリテール事業本部D事業所が管轄するC内の売店において販売業務に現に従事し、または従事していた者である。X1は平成18年8月1日にY社に採用され現在までY社売店の販売員として勤務している。X2は16年8月6日にY社に採用されて勤務し27年3月31日に定年退職した後に、Y社に登録社員として再雇用されて現在まで勤務している。X3は16年4月5日にY社に採用され26年3月31日に定年退職した。X4は平成16年9月1日にY社に採用され、24年3月31日に定年退職し、同年5月21日から25年11月26日に退職するまで登録社員として販売補助業務に従事していた。Xらは、全国一般労働組合全国協議会東京東部労働組合Y支部(以下「本件組合」)の構成員である。
Y社は、昭和32年に設立されたE株式会社が、昭和57年に株式会社Fに商号変更し、平成12年10月にY社を含むGグループ関連会社等の再編成に伴い、売店事業を行っていた互助会から売店等の物販事業に関する営業を譲り受け、互助会及びセルビスから広告取扱業務の営業を譲り受け、平成14年4月に駅業務全体を受託することになり、平成16年6月に商号を現商号に改めた。これらに伴い、Y社には①互助会より引き続き雇用される正社員、②会社再編時にパートタイマーであった者が契約社員Bとなり、そのまま契約社員Bとして雇用される者、③登用により契約社員Aや正社員となった者、④Y社において正社員として新たに雇用された者、⑤Y社において契約社員Bとして新たに採用され、契約社員Bとして雇用されている者、⑥Y社において契約社員Bとして新たに採用され、後に登用によって契約社員Aや正社員になった者が並存していた(なお、平成28年4月に契約社員Aは職種限定社員と改められ、無期労働契約とされ、退職金制度が設けられた)。
Y社の従業員840余名のうち正社員は600名、そのうち売店業務に従事しているのは18名であった。Y社には、契約社員Bから契約社員A及び契約社員Aから正社員への登用制度が設けられていたが、平成22年度からは勤続1年以上の希望者全員に受験が認められる登用試験に改められた。契約社員BからAへの登用試験制度は、一次試験(筆記・論文試験)と二次試験(面接)を実施した上で、勤務成績等を踏まえて登用の是非が決定されていた。22年度から26年度の合計で、契約社員BからAの登用試験の受験者は134名(うちC事業所は104名)で合格者は28名(同14名)であり、Xらは平成22年及び23年に契約社員BからAへの登用試験を受験したが不合格であった。 - 主文
- 1 被告は、原告X1に対し、4109円及びうち別紙7「残業手当差額(裁判所)」の「認定差額」欄記載の各金額に対する各「支給年月日」欄記載の日から、うち500円に対する平成26年5月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告X1のその余の請求及び同原告以外の原告らの請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、原告X1に生じた費用の1000分の1と被告に生じた費用の1000分の1を被告の負担とし、その余の費用を原告らの負担とする。 - 判決要旨
- (1)Y社の正社員と契約社員Bとの間には、従事する業務の内容およびその業務に伴う責任の程度に大きな相違があり、職務の内容および配置の変更の範囲に大きな相違がある上に、正社員には長期雇用を前提とした年功的な賃金制度を設け、短期雇用を前提とする有期契約労働者にはこれと異なる賃金体系を設けるという制度設計をすることには、企業の人事施策上の判断として一応の合理性が認められる。
(2)賃金制度(月給制と時給制)、資格手当加算、昇給・昇格について
Y社においては、正社員は月給制で昇給・昇格、資格手当加算等があり、契約社員Bは時給制で(採用当初は一律時給1000円で昇給なしだったが、平成22年4月以降は毎年10円昇給)とされていたところ、契約社員Bの本給は高卒新規採用の正社員の1年目より高く、3年目でも同程度であり、10年目の本給を比較しても契約社員Bの本給は正社員の本給の8割以上は確保され、契約社員Bの本給も毎年時給10円ずつ昇給すること、契約社員Bには正社員にはない早番手当、皆勤手当が支給されることを踏まえると、長期雇用を前提とした正社員と有期雇用である契約社員Bとの間で、本給等における相違を設け、昇給・昇格について異なる制度を設けることは不合理なものであるとは認められない。
(3)住宅手当について
Y社において正社員には住宅手当(扶養家族がある者は月額15900円、ない者は9200円)が支給されるが、契約社員Bには扶養家族の有無を問わず住宅手当は支給されていないところ、本件判決は、Y社の正社員は転居を伴う可能性のある配置転換や出向が予定され、配転等が予定されない契約社員Bに比べて住宅コストの増大が見込まれることに照らすと、長期雇用を前提とした配転のある正社員への住宅費用の援助および福利厚生を手厚くすることによって、有為な人材の獲得・定着を図るというY社の主張する目的は人事施策上相応の合理性を有するということができる。
(4)賞与について
Y社においては、正社員には毎年夏冬2回、原則として月額給与(本給)の2か月分に一定額(17万円または17万6000円)を加算した賞与がそれぞれ支給されるところ、契約社員Bには毎年夏冬2回、各一律12万円の賞与がそれぞれ支給されている。正社員と契約社員Bとの間には職務に内容ならびに職務の内容および配置の変更の範囲に大きな相違があることや、契約社員Bにも夏冬各12万円の賞与が支給されることに加え、賞与は労働の対価としての性格のみならず、功労報償的な性格や将来の労働への意欲向上としての意味合いを持つこと、このような賞与の性格を踏まえ長期雇用を前提とする正社員に対し賞与の支給を手厚くすることにより有為な人材の獲得・定着を図るという人事施策上目的には一定の合理性が認められることを勘案すると、賞与における正社員と契約社員Bとの相違は不合理なものであるとまでは認められない。
(5)退職金について
Y社においては、正社員には退職金制度があり、勤続年数等に応じた金額が支給されるのに対し、契約社員Bには退職金制度はない。退職金には賃金の後払い的性格のみならず功労報償的性格を有することに照らし、長期雇用を前提とした正社員に対する福利厚生を手厚くし、有為な人材の確保・定着を図る等の目的を持って正社員に対する退職金制度を設け、短期雇用を原則とする有期契約労働者には退職金制度を設けないとの制度設計をすることは、人事施策上一定の合理性を有する。
正社員と契約社員との間に職務内容、職務内容および配置の変更の範囲に大きな相違があること、Y社では契約社員の登用制度を設け、実際に契約社員Bから契約社員Aへの登用実績があることを併せ考慮すると、退職金における正社員と契約社員Bとの間の相違は不合理とまでは認められない。
(6)褒賞について
Y社においては、業務上特に顕著な功績があった社員に対し褒賞を行う旨の褒賞取扱要領が存在し、そのうち永年勤続褒賞(勤続10年で表彰状と3万円、以後10年毎に褒賞。定年退職時に感謝状と5万円相当の記念品贈呈)は正社員にのみ適用され、契約社員A・Bには適用されないこととされているところ、永年勤続褒賞の支給は、長期雇用を前提とする正社員にのみを支給対象とし、短期雇用が想定される契約社員に褒賞を支給しない扱いをすること事態は不合理とはいえない。
(7)早出残業手当について
Y社の正社員には、所定労働時間を超える勤務について、はじめの2時間までは1時間につき2割7分、2時間を超える時間については3割5分の早出残業手当が支給され、契約社員Bには法定と同一の2割5分の早出残業手当が支給されている。
割増賃金の趣旨に照らせば、時間外労働に対し、使用者はそれが正社員であるか有期契約労働者であるかを問わず、等しく割増賃金を支払うのが相当というべきであって、このことは使用者が法定の割増率を上回る割増賃金を支給する場合であっても妥当するというべきである。そうすると、割増賃金の性質を有する早出残業手当におけるこのような相違は、労働契約の期間を定めたことを理由とする相違であって、不合理なものというべきである。
正社員と契約社員との労働条件の相違のうち、早出残業手当に関する相違は労働契約法20条に違反する不合理なものであって、X1とY社との労働契約のうち早出残業手当を定めた部分は無効であり、正社員より低い早出残業手当を支給したY社の対応はX1に対する不法行為を構成する。 - 適用法規・条文
- 労働契約法20条 民法415条 民法709条
- 収録文献(出典)
- 労働判例1154号5頁
- その他特記事項
- 本判決は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
東京高裁 平成29年(ネ)第1842号 | 原告側控訴:一部認容、一部棄却、被告側控訴:棄却 | 2019年02月20日 |
最高裁三小 − 令和1年(受)第1190号、令和1年(受)第1191号 | 一部棄却、一部変更、一部不受理 | 2020年10月13日 |