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学校法人O大学(地位確認等請求)事件
- 事件の分類
- 賃金・昇格
- 事件名
- 学校法人O大学(地位確認等請求)事件
- 事件番号
- 大阪地裁 平成27年(ワ)第8334号
- 当事者
- 大阪地裁 平成27年(ワ)第8334号
- 業種
- 教育、学習支援業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2018年01月24日
- 判決決定区分
- 請求棄却
- 事件の概要
- 原告Xは、平成25年1月29日に、アルバイト職員として、合併前の被告Y法人との間で同年3月31日までを雇用期間とする有期労働契約を締結し、同年4月1日に契約期間を1年とする有期労働契約を締結・更新し、平成28年3月31日までY法人に在籍した。Xは、B学教室の教室事務員として勤務していたが、平成27年3月4日に適応障害と診断され、同月9日から退職日まで出勤していない。
本件は、有期労働契約を締結して、Y法人においてアルバイト職員として勤務していたXが、期間の定めのない労働契約をY法人と締結している労働者(正職員)とアルバイト職員との間で、基本給、賞与、年末年始及び創立記念日の休日における賃金支給、年休の日数、夏期特別有給休暇、業務外の疾病(私傷病)による欠勤中の賃金、附属病院の医療費補助措置等に相違があることは、労働契約法20条に違反すると主張して、主位的には、労働契約法20条違反により正職員と同様の労働条件が適用されることを前提に労働契約に基づき、予備的には、不法行為に基づき、正職員との差額賃金等及び遅延損害金の支払いと慰謝料等及び遅延損害金の支払を求めた事案である。 - 主文
- 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。 - 判決要旨
- 1 労働契約法20条の趣旨について
労働契約法20条は、「不合理と認められるものであってはならない」と規定しており、同規定は、労働協約や就業規則、個別契約によって律せられる有期雇用労働者の労働条件が、無期雇用労働者の労働条件に比して、法的に否認すべき内容ないし程度で不公正に低いものであることを禁止する趣旨と解される。
また、同条は、有期雇用労働者と無期雇用労働者の労働条件の相違が不合理と認められるか否かの考慮要素として、(1)職務の内容、(2)職務の内容及び配置の変更の範囲、その他の事情を掲げているところ、その他の事情として考慮すべき内容について、上記(1)及び(2)を例示するほかに特段の制限を設けていないから、労働条件の相違が不合理であるか否かについては、上記(1)及び(2)に関連する諸事情を幅広く総合的に考慮して判断すべきものと解するのが相当である。
そして、労働契約法20条所定の「不合理と認められること」は、規範的要件であって、その文言からして、不合理性を基礎付ける事実は労働者が、不合理性の評価を妨げる事実は使用者がそれぞれ主張立証責任を負うと解するのが相当である。
2 期間の定めがあることを理由とする相違にあたるか
有期雇用労働者と無期雇用労働者との間で労働条件に相違がある場合は、期間の定めの有無と明らかに関連がない相違である場合を除き、労働契約法20条が掲げる各要素に照らし、不合理であるか否かを判断するのが相当であるというべきである。
以上を踏まえて本件についてみると、Y法人は、無期雇用職員を正職員、有期雇用職員をアルバイト職員と位置づけてそれぞれ異なる就業規則を設け、賃金その他の労働条件について異なる扱いをしているのであるから、無期雇用職員と有期雇用職員の相違は、期間の定めの有無に関連して生じたものであると認めるのが相当である。
3 不合理な労働条件の相違にあたるか
Y法人における正職員は200名強であること、Y法人においては、正職員の教室事務員は他の部門に配置転換される可能性があり、その労働条件は、Y法人における正職員全体の平均的な労務提供の内容を踏まえて設定されているものと認められることに鑑みると、本件における労働契約法20条に係る不合理性の判断においては、有期雇用職員(アルバイト職員)であるXと無期雇用職員であるY法人の正職員全体を比較対照するのが相当というべきである。
(1)賃金及び賞与
アルバイト職員は時給制であるのに対し、正職員は月給制であること、Xの時給は950円であったが、平成25年度新規採用正職員の初任給は19万2570円であったこと、アルバイト職員には賞与は支給されないが、正職員には賞与が支給されること、以上の点が認められる。
同相違は、賃金の算定方法の違いであるところ、いずれの算定方法を採用するかによって細かい相違はあるものの、いずれの方法も一般に採用されているものであり、一概に一方が他方に比して不合理であるといえるものではない。アルバイト職員の6割程度は短時間勤務者であったことをも併せ鑑みると、アルバイト職員について、個別の賃金計算がより容易な時給制を採用することが不合理であるとはいえない。
Xの時給は950円であり、フルタイムで換算すると月額15万円から16万円までの範囲となるのに対し、正職員の初任給は19万2570円であるから、両者の間には、約2割程度の賃金水準の相違がある。また、賞与の支給も含めた年間の総支給額を比較すると、賞与について欠勤控除を考慮しなければ、Xについては、平成25年度新規採用職員の約55パーセント程度の水準ということになる。
正職員とアルバイト職員の職務の内容や異動の範囲が異なること、正職員の賃金は一定の能力を有することを前提として職能給の性質を有するのに対し、アルバイト職員の賃金は特定の業務をすることを前提とする職務給の性質を有しており、いずれの賃金の定め方にも合理性があるといえること、アルバイト職員については、正職員として就労する方法がないわけではなく、労働者の努力や能力によってその相違の克服が可能であること、 Xの賃金は、平成25年度新規採用正職員の賞与も含めた年間の総支給額と比較すると、Xの主張によっても約55パーセント程度の水準であり、相違の程度は一定の範囲に収まっているといえること、以上の点が認められ、これらの点を総合的に勘案すれば、Xが主張する賃金に関する相違が、労働契約法20条に違反する不合理な労働条件の相違であるとまでは認められない。
一般的に賞与は、月額賃金を補うものとしての性質も有していると認められるところ、Y法人の正職員に対して、賃金の一定の割合を賞与として特定の時期にまとめて支給することは、長期雇用が想定され、かつ、上記したような職務内容等を担っている正職員の雇用確保等に関するインセンティブとして一定の合理性があるといえる。他方、アルバイト職員については、上記したような正職員と同様のインセンティブが想定できない上、雇用期間が一定ではないことから、賞与算定期間の設定等が困難であるという事情がある。そして、以上のような事情に、透明性や公平感の確保という観点をも併せ鑑みれば、有期雇用労働者に対しては、むしろ完全時給制で労働時間に応じて賃金を支払う方が合理的であると考えられる。加えて、月額賃金と賞与を合わせた年間の総支給額で比較しても、約55パーセント程度の水準であり、相違の程度は一定の範囲に収まっていると認められる。以上認定説示した諸事情を総合的に勘案すると、正職員について賞与を支払い、アルバイト職員には支払っていないとしても、労働契約法20条に違反する不合理な労働条件の相違があるとまでは認められない。
(2)年末年始や創立記念日の休日における賃金支給
確かに、正職員は月給制であるのに対し、アルバイト職員は時給制であるため、年末年始等の休日があった場合は、正職員の賃金は減少しないが、アルバイト職員の賃金が減少することになる。しかしながら、この点の相違は、月給制と時給制という賃金制度の違いから必然的に生ずるものであって、正職員とアルバイト職員で賃金形態を異にすることが不合理であるとは認められない以上、その結果として、相違が生じたとしても、それ自体不合理なものであるとはいえない。
(3)年休の日数
正職員とアルバイト職員では、年休の算定方法に相違があることが認められ、その結果、Xが採用された同じ日に、仮に、正社員として採用されていたとすると、年休の日数が1日の少ないこととなる。もっとも、そもそもY法人の正職員について、当初の2年内において年休付与日数を調整し、採用から2年以内に到来する最後の年始以降、年休付与日を毎年1月1日として、一律に扱うという手続を採用している理由は、Y法人の正職員が、Y法人において長期にわたり継続して就労することが想定されていることに照らし、年休手続の省力化や事務の簡便化を図るという点にあると認められる。これに対して、アルバイト職員については、雇用期間が一定しておらず、また、更新の有無についても画一的とはいえない上、必ずしも長期間継続した就労が想定されているとは限らず、年休付与日を特定の日に調整する必然性に乏しいことから、個別に年休の日数を計算するものとしたと考えられる。
Y法人の正職員とアルバイト職員との間における年休日数の算定方法の相違については、一定の根拠がある上、その結果として付与される年休の相違の日数は、Xの計算においても1日であるという点をも併せ鑑みると、同相違が労働契約法20条に違反する不合理な労働条件の相違であるとまでいうことはできない。
(4)年末年始や創立記念日の休日における賃金支給
確かに、正職員は月給制であるのに対し、アルバイト職員は時給制であるため、年末年始等の休日があった場合は、正職員の賃金は減少しないが、アルバイト職員の賃金が減少することになる。しかしながら、この点の相違は、月給制と時給制という賃金制度の違いから必然的に生ずるものであって、正職員とアルバイト職員で賃金形態を異にすることが不合理であるとは認められない以上、その結果として、上記相違が生じたとしても、それ自体不合理なものであるとはいえない。
(5)夏期特別休暇について
Y法人の正職員については、夏期に5日間の夏期特別休暇があるのに対し、アルバイト職員については夏期特別休暇が存在しない。しかしながら、アルバイト職員については、フルタイムか否か等その労働条件は様々であり、雇用期間が夏期を含まない場合も想定し得るのに対して、正職員については、長期にわたり継続して、フルタイムで就労することが想定されており、平均すれば月に17.5時間程度の時間外労働に従事し、月当たりの労働時間も、Xとの比較において、約14.5時間長いことが認められる。
正職員は、フルタイムでの長期にわたる継続雇用を前提としていること、正職員の時間外労働数を年間で比較すれば、Xよりも170時間以上長く(なお、同時間を所定労働時間で除すれば23日分程度になる。)、このような就労実態を踏まえると、正職員に対しては、単にその時間に対応する時間外賃金を支払うというだけではなく、1年に一度、夏期に5日間のまとまった有給休暇を付与し、心身のリフレッシュを図らせることには十分な必要性及び合理性が認められ、他方、Xを含むアルバイト職員については、その労働条件や就労実態に照らしても、これらの必要性があるとは認め難い。そうすると、この点の相違について、労働契約法20条に違反する不合理な労働条件の相違とまでいうことはできない。
(6)私傷病による欠勤について
そもそも私傷病によって労務の提供ができない場合、本来は、使用者に賃金支払義務はない。それにもかかわらず、本件において、Y法人が、正職員に対して、一定の賃金や休職給を支払う旨を定める趣旨は、正職員として長期にわたり継続して就労をしてきた貢献に対する評価や、定年までの長期継続した就労を通じて、今後長期にわたって企業に貢献することが期待されることを踏まえ、正職員の生活に対する生活保障を図る点にあると解される。これに対し、アルバイト職員については、契約期間が最長でも1年間であって、Y法人において長期間継続した就労をすることが当然には想定されていないことからしても、上記したような正職員に係る就労実態等とは異なっているといわざるを得ない。そうすると、Y法人の正職員とアルバイト職員において、上記相違があること自体、労働契約法20条に違反する不合理な労働条件の相違であるとはいえない。
(7)附属病院受診に対する医療費補助について
Y法人における医療費補助制度の性質等に鑑みれば、そもそも同制度の適用それ自体は、飽くまでも恩恵的な措置というべきであって、雇用契約それ自体から当然に認められるものであるとまでは認め難く、また、仮に労働条件に含まれているとしても、上記した制度趣旨等に照らすと、その適用範囲等の決定については、Y法人に広範な裁量が認められるものであると解するのが相当である。そして、アルバイト職員の職務内容等からすると、Y法人が、アルバイト職員に対して同補助制度を適用しないという運用(医療費補助規程内規上の「職員」に含まれないという運用)が、Y法人の裁量権を逸脱又は濫用しているとまでは認められない。 - 適用法規・条文
- 労働契約法20条、民法709条
- 収録文献(出典)
- 労働判例1175号5頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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大阪高裁 平成30年(ネ)第406号 | 一部認容(原判決変更)、一部棄却 | 2019年02月15日 |