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学校法人O大学(地位確認等請求)控訴事件

事件の分類
賃金・昇格
事件名
学校法人O大学(地位確認等請求)控訴事件
事件番号
大阪高裁 平成30年(ネ)第406号
当事者
控訴人…個人、被控訴人…学校法人
業種
教育、学習支援業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2019年02月15日
判決決定区分
一部認容(原判決変更)、一部棄却
事件の概要
 本件は、有期労働契約を締結して、被控訴人(1審被告)Y法人においてアルバイト職員として勤務していた控訴人(1審原告)Xが、期間の定めのない労働契約をY法人と締結している労働者(正職員)との間で、基本給、賞与、年末年始及び創立記念日の休日における賃金支給、年休の日数、夏期特別有給休暇、業務外の疾病(私傷病)による欠勤中の賃金、附属病院の医療費補助措置等に相違があることは労働契約法20条に違反すると主張して、主位的には、労働契約法20条違反により正職員と同様の労働条件が適用されることを前提に労働契約に基づき、予備的には、不法行為に基づき、正職員の賃金等との差額相当額等(合計1272万1811円)の損害賠償金、慰謝料(計136万5347円)及び遅延損害金の支払いを求めた事案である。1審(大阪地裁 平成30年1月24日判決 労働判例1175号5頁)は、Xの請求をいずれも棄却したため、Xが控訴した。
主文
1 原判決を次のとおり変更する。
2 被控訴人は、控訴人に対し、109万4737円及びこれに対する平成28年4月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 控訴人のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は、第1、2審を通じてこれを10分し、その9を控訴人の、その余を被控訴人の各負担とする。
5 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。
判決要旨
1 労働契約法20条の趣旨
労働契約法20条は、有期契約労働者の労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と無期労働契約を締結している無期契約労働者の労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(職務の内容)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない旨を定めている。同条は、有期契約労働者については、無期契約労働者と比較して合理的な労働条件の決定が行われにくく、両者の労働条件の格差が問題となっていたこと等を踏まえ、有期契約労働者の公正な処遇を図るため、その労働条件につき、期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したものである。
 そして、同条は、有期契約労働者と無期契約労働者との間で労働条件に相違があり得ることを前提に、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情(職務の内容等)を考慮して、その相違が不合理と認められるものであってはならないとするものであり、職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定であると解される。
 労働契約法20条は、有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件が期間の定めがあることにより相違していることを前提としているから、両者の労働条件が相違しているというだけで同条を適用することはできない。一方、期間の定めがあることと労働条件が相違していることとの関連性の程度は、労働条件の相違が不合理と認められるものに当たるか否かの判断に当たって考慮すれば足りるものということができる。
そうすると、同条にいう「期間の定めがあることにより」とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいうものと解するのが相当である。
 次に、労働契約法20条は、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が、職務の内容等を考慮して「不合理と認められるものであってはならない」と規定していることに照らせば、同条は飽くまでも労働条件の相違が不合理と評価されるか否かを問題とするものと解することが文理に沿うものといえる。また、同条は、職務の内容等が異なる場合であっても、その違いを考慮して両者の労働条件が均衡のとれたものであることを求める規定であるところ、両者の労働条件が均衡のとれたものであるか否かの判断に当たっては、労使間の交渉や使用者の経営判断を尊重すべき面があることも否定し難い。したがって、同条にいう「不合理と認められるもの」とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることをいうと解するのが相当である。
 そして、両者の労働条件の相違が不合理であるか否かの判断は規範的評価を伴うものであるから、当該相違が不合理であるとの評価を基礎付ける事実については当該相違が同条に違反することを主張する者が、当該相違が不合理であるとの評価を妨げる事実については当該相違が同条に違反することを争う者が、それぞれ主張立証責任を負うものと解される。(以上につき、最高裁 平成30年6月1日判決・民集72巻2号88頁参照)
 当裁判所も、Xと正職員との労働条件の相違が不合理か否かを判断するために比較対照すべき無期契約労働者は、Y法人の正職員全体であり、かつ、Xの労働条件はアルバイト職員就業内規に定められているところにより、他の規程が適用されるものではないと判断する。比較対象者は客観的に定まるものであって、有期契約労働者側が選択できる性質のものではない。
 労働者の賃金に関する労働条件は、労働者の職務内容及び変更範囲により一義的に定まるものではなく、使用者は、雇用及び人事に関する経営判断の観点から、労働者の職務内容及び変更範囲にとどまらない様々な事情を考慮して、労働者の賃金に関する労働条件を検討するものということができる。また、労働者の賃金に関する労働条件の在り方については、基本的には、団体交渉等による労使自治に委ねられるべき部分が大きいということもできる。そして、労働契約法20条は、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断する際に考慮する事情として、「その他の事情」を挙げているところ、その内容を職務内容及び変更範囲に関連する事情に限定すべき理由は見当たらない。
 したがって、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断する際に考慮されることとなる事情は、労働者の職務内容及び変更範囲並びにこれらに関連する事情に限定されるものではないというべきである。(最高裁 平成30年6月1日判決・民集72巻2号202頁参照)
2 期間の定めがあることを理由とする相違にあたるか
 労働契約法20条の「期間の定めがあることにより」とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいう。これを本件についてみると、賃金、賞与等Xが主張するXとA氏を含む正職員との労働条件の相違は、アルバイト職員と正職員とでそれぞれ異なる就業規則等が適用されることにより生じているものであるから、当該相違は期間の定めの有無に関連して生じたものであるということができる。したがって、XとA氏を含む正職員との上記労働条件は、同条にいう期間の定めがあることにより相違している場合に当たるということができる。

3 不合理な労働条件の相違にあたるか
(1)労働条件の相違を判断するに当たっての比較対象者及びY法人の休職規程等の適用範囲について
 当裁判所も、Xと正職員との労働条件の相違が不合理か否かを判断するために比較対照すべき無期契約労働者は、Y法人の正職員全体であり、かつ、Xの労働条件はアルバイト職員就業内規に定められているところにより、他の規程が適用されるものではないと判断する。
(2)賃金(基本給)について
 Y法人の正職員は、法人全体のあらゆる業務に携わっており、その業務内容は総務、学務、病院事務等多岐にわたり、法人全体に影響を及ぼすような重要な施策も含まれ、業務に伴う責任も大きく、あらゆる部署への異動の可能性があったが、アルバイト職員が行うのは定型的な事務や雑務が大半で、配転は例外的であった。職務、責任、異動可能性、採用に際し求められる能力に大きな相違があること、賃金の性格も異なることを踏まえると、正職員とアルバイト職員で賃金水準に一定の相違が生ずることも不合理とはいえない。その相違は、約2割にとどまっていることからすると、そのような相違があることが不合理であるとは認めるに足りない。
(3)賞与について
 Y法人においては、正職員に対しては、年2回の賞与が支払われており、一方、アルバイト職員に対しては、アルバイト職員就業内規で賞与は支給しないと定められている。Y法人における賞与が、正職員として賞与算定期間に在籍し、就労していたことそれ自体に対する対価としての性質を有する以上、同様にY法人に在籍し、就労していたアルバイト職員、とりわけフルタイムのアルバイト職員に対し、額の多寡はあるにせよ、全く支給しないとすることには、合理的な理由を見出すことが困難であり、不合理というしかない。もっとも、賞与には、功労、付随的にせよ長期就労への誘因という趣旨が含まれ、使用者の経営判断を尊重すべき面があることも否定し難い。上記の観点及びY法人が契約職員に対し正職員の約80%の賞与を支払っていることからすれば、Xに対し、平成25年4月1日付けで採用された者と比較対照し、その60%を下回る支給しかしない場合は不合理な相違に至るものというべきである。
(4)年末年始や創立記念日の休日の賃金
 年末年始及び創立記念日の休日については、アルバイト職員は時給制であるため休日が増えればそれだけ賃金が減少するが、正職員は月給制であるため賃金が減額されないが、これは、一方は時給制、他方は月給制を採用したことの帰結にすぎず、このような相違が生ずることをもって不合理とはいえない。
(5) 年休の日数について
 当裁判所も、年休の日数に1日の相違が生ずるとしても、これを、労働契約法20条に違反する不合理な労働条件の相違であるとはいうことができないと判断する。
(6)夏期特別有給休暇
 Y法人の正職員には、夏期(7月1日から9月30日まで)に5日の夏期特別休暇が付与されるのに対し、アルバイト職員には付与されない。アルバイト職員であってもフルタイムで勤務している者は、職務の違いや多少の労働時間(時間外勤務を含む。)の相違はあるにせよ、夏期に相当程度の疲労を感ずるに至ることは想像に難くない。そうであれば、少なくとも、Xのように年間を通してフルタイムで勤務しているアルバイト職員に対し、正職員と同様の夏期特別有給休暇を付与しないことは不合理であるというほかない。
(7)私傷病による欠勤中の賃金及び休職給について
 Y法人の正職員の私傷病による欠勤時に支給される賃金(6か月間は賃金全額、6か月経過後は標準賃金の2割の休職給)の趣旨は、長期継続就労を評価・期待し生活保障を図る点にある。フルタイム勤務で契約期間を更新しているアルバイト職員に対して、私傷病による欠勤中の賃金支給を一切行わないこと、休職給の支給を一切行わないことは不合理というべきである。
 アルバイト職員の契約期間は更新があり得るとしても1年であるのが原則であり、当然に長期雇用が前提とされているわけではないことを勘案すると、私傷病による賃金支給につき1か月分、休職給の支給につき2か月分(合計3か月、雇用期間1年の4分の1)を下回る支給しかしないときは、正職員との労働条件の相違が不合理であるというべきである。
 なお、Xが私学共済の加入資格を失ったことは、Y法人が私傷病の期間に賃金を支給せず、休職給も支払わなかったことの帰結であるから、これに係る損害は労働契約法20条違反の労働条件を適用した不法行為と相当因果関係のある損害と評価できる。
(8)附属病院の医療費補助措置について
 当裁判所も、附属病院受診の際の医療費補助措置は、恩恵的な措置というべきであって、労働条件に含まれるとはいえず、正職員とアルバイト職員との間の相違は労働契約法20条に違反する不合理な労働条件の相違とはいえないと判断する。

4 Y法人に不法行為法上の故意・過失があるかについて
 確かに、労働契約法20条が施行された当初は、必ずしも解釈が定まっていなかった部分もあるものの、他方で、本件で不合理とされたような労働条件の相違が労働契約法20条違反ではないと明言している判例があったり、そのような学説が通説的であったわけではない。その中であえてY法人が本件で不合理とされたような労働条件の相違が労働契約法20条に違反しないと判断したことには過失があったというべきである。

5 損害の有無及びその額
 本件において、賞与を支給しないこと、夏期特別有給休暇を付与しないこと、私傷病による欠勤中の賃金及び休職給を支給しないことは、Xの労働条件が、Y法人の正職員全体と比較対照して、その相違が不合理であるというべきである。Y法人がXに対し賞与を支給しないことは、正職員全体のうち平成25年4月1日付けで採用された者の賞与の支給基準の60%を下回る支給しかしない限度で労働契約法20条に違反する不合理な相違であると解される。Y法人がXに対し労働契約法20条に違反する労働条件(賞与を支給しない)を適用したことによってXが賞与相当額を喪失した損害額は、70万3750円となる。
Y法人がXに対し平成25年度及び平成26年度に各5日の夏期特別有給休暇を付与しなかったことは、労働契約法20条に違反する不合理な相違であると解される。そうすると、Xは、平成25年度及び平成26年度に各5日の有給休暇を取得することができなかったことで合計5万0110円の損害を被ったものと認められる。
 Y法人がXに対して私傷病で欠勤中に賃金を支給せず、休職給も支給しないことは、私傷病で欠勤中の賃金1か月分、休職給2か月分を下回る賃金及び休職給しか支給しない限度で労働契約法20条に違反する不合理な相違であると解される。そうすると、Xは、欠勤直前の賃金の1か月分15万5677円と、その休職給2か月分である6万2270円の合計21万7947円の損害を被ったものと認められる。
 Xは、私学共済の資格喪失に伴い、健康保険の短期掛金(月額5677円)と介護保険の介護掛金(月額855円)が任意継続掛金(月額1万3042円)となって6510円増加し、厚生年金の長期掛金(月額1万0635円)が国民年金保険料(月額1万5590円)となって4955円増加した。Xは、上記の合計月額1万1465円の2か月分である2万2930円の損害を被ったものと認められる。
Xは、Y法人により不合理な取扱いを受け、精神的苦痛を被ったとして、慰謝料を請求するが、労働契約法20条に違反する労働条件の適用によって被った損害は、上記の損害賠償金によって回復されることとなるので、Xは相当程度に慰謝されると解される。本件では、それでもなお慰謝されない精神的苦痛が残存するとは認めるに足りない。
Xは、本件訴訟のために弁護士に委任することを余儀なくされたと認められるところ、その弁護士費用の相当額は、本件の事案に鑑み、記の合計額99万4737円の約1割である10万円と認められる。以上の総合計額は、109万4737円となる。
適用法規・条文
労働契約法20条、民法709条
収録文献(出典)
労働判例1199号5頁
その他特記事項
本件は上告された。