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A町(損害賠償請求)事件

事件の分類
セクシュアル・ハラスメント
事件名
A町(損害賠償請求)事件
事件番号
徳島地裁 平成29年(ワ)第238号
当事者
原告…個人、被告…個人・町、地方公共団体
業種
公務
判決・決定
判決
判決決定年月日
2019年03月18日
判決決定区分
一部認容、一部棄却
事件の概要
 原告Xは、平成7年4月1日、被告Y3町の正規職員(現業職員)に採用され、休職を経て、平成21年6月1日から平成29年6月まで、Y3町の廃棄物中間処理施設であるA西クリーンステーション(以下「西クリーンステーション」という。)で勤務していた。その後、Xは、平成29年6月6日からは、Y3町の教育委員会部局へ出向のうえ、Y3町の役場内のコミュニティセンターに配属され、平成30年4月からは、Y3町が設置する藍住東中学校で用務員として勤務している。Xは、左下肢機能障害により、身体障害者4級に認定されている。
 本件は、現業職員であるXが、(1)上司であった被告Y1から、就労中に「わがまま障害者」であると言われたり、職場の歓送迎会の席で汚れたおしぼりを投げつけられたりなどした、(2)Y3町の職員である被告Y2から、食事会の席で、「チューしてええか」など言われたり、胸や背中などを触られるといったセクシャル・ハラスメントを受けた、(3)Y3町は、ロッカーやトイレの設備について改善や、職場の同僚からのセクシャル・ハラスメントへの対応を求める旨のXの訴えに何らの対応しなかったうえ、本件訴えに対する報復目的で、障害のあるXを重労働が必要な職場へ配置転換させたなどと主張して、Y3町に対して、不法行為及び国家賠償法1条1項に基づき慰謝料200万円を、Y1に対し不法行為に基づき慰謝料100万円、Y2に対し不法行為に基づき慰謝料200万円と、それぞれについて遅延損害金の支払を求めた事案である。
 Y1は、平成28年4月から平成30年3月31日まで、西クリーンステーションの所長であった。Y2は、平成29年3月当時、Y3町の住民課課長であり、現在は、Y3町の健康推進課の課長である。
 なお、Y1の(1)の言動、Y2の(2)言動について、Y3町は以下の処分を行っている。平成29年4月6日、 X、Y2、西クリーンステーションに勤務していたA、Y3町の町議会議員であったBの4名が同年3月3日に「ふる川」という店で行った食事会(以下「本件食事会」という。)において、Y2が、嫌がるXに対し、顔を近づけ「チューしていいか、したろか」と言い、「セックスするか」などのわいせつな言辞を行ったとして、Y2に対し、6月間給料月額の10分の1減額の処分をした。
 また、Y3町は、同年4月7日、平成28年4月当時、西クリーンステーションの所長であったY1が、Xに対し、「わがまま障害者」などと発言したり、歓送迎会でXに向かっておしぼりを投げたりするなどの不適切な発言や不快感を与える行動を行い、また、生理休暇の取り方や私用携帯電話の注意などについて理解を得るような指導を行わなかったとして、Y1に対し、障害のある部下の人格の尊重はもとより、不信感、不快感を与えないように努め、言動に十分注意しなければならない立場にある管理職として、今後、上記のようなことを起こさないようにという戒告の処分にした。
主文
1 被告Y3町は、原告に対し、10万円及びこれに対する平成29年8月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告Y2は、原告に対し、100万円及びこれに対する平成29年8月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告の被告Y1に対する請求並びに原告の被告Y3町及び被告Y2に対するその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、原告に生じた費用の5分の2と被告Y3町に生じた費用との合計の20分の19を原告の、20分の1を被告Y3町の各負担とし、原告に生じた費用の5分の2と被告Y2に生じた費用との合計の2分の1を原告の、2分の1を被告Y2の各負担とし、原告に生じた費用の5分の1と被告Y1に生じた費用との合計は全て原告の負担とする。
5 この判決は、第1項及び第2項に限り、仮に執行することができる。
判決要旨
1 損賠賠償責任について
(1)Y3町の国家賠償法に基づく損害賠償義務について
Xが、西クリーンステーションの同僚であったCから、卑猥なメールを送信されるなどのハラスメントを受けたことがあるが、Xが、当時のセンター長Eを通じてY3町に対し、上記のCからのメールへの対応を依頼した事実を認めるに足りる証拠はないから、センター長E及びY3町において、Xのハラスメントの訴えを放置したものとは認められない。
 Xの生理休暇の申請・取得に対するY1の注意の内容等は、Xに事情を確認することなく、職場内の噂などから、安易にXが生理休暇を取得して大阪に行こうとしていると判断し、Xに生理休暇の申請・取得について注意をしたことは、適切なものであったとは言い難いものの、その内容、程度は、一般的なものに留まっており、不合理・不相当なものであるとまでいえない。そして、現にXが生理休暇を取得できなかったことはないことをも併せ考慮すれば、Y1による注意が違法なものであったとはいえない。
 Y1は、平成28年6月頃、職務中に、Xに対し「見た目に分からん、軽いのに、無理言うて書いてもろとるわがまま障害者でええなあ」という趣旨の発言を行っているところ、上記発言は、Xの障害についての理解を欠き、障害を理由にXの人格をいたずらに中傷するものであるといえる。そして、Y1は、上記発言を冗談半分で行ったものであり、そのような発言をする必要性や相当性があったとは認められない。
 したがって、Y1の上記発言は、国家賠償法上違法なものであるといわざるをえない。 
 Y3町には、前記のY1の発言について、Xに対し、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償義務がある
(2)Y1の責任について
Y1が、Xに「生理休暇を取るな」などと発言した事実は認められない。また、前記のとおり、Y1が、Xに対し、Xの人格をいたずらに中傷する発言である「わがまま障害者」などと言った事実は認められるが、これについては、Y3町に国家賠償法上の責任が認められるから、公務員であるY1自身は、Xに対し、不法行為責任を負わない。
そして、平成25年6月頃、Y1が、職場の懇親会において、使用したおしぼりをXに向かって放り投げてその背中に当て、Xにビールの注文をさせた事実は認められるが、これは、Y1において、殊更にXに対する嫌がらせ等の目的があったとまでは認められない。Y1の上記行為は、同人をして不法行為による金銭賠償義務を負わせなければならないほどの精神的苦痛をXに生じさせるものとまでは認められない。Y1のXに対する不法行為責任は認められない。
(3)Y2の責任について
 本件食事会におけるY2のXに対する言動の内容は、Xに性交渉を求めるなど明らかに性的意図に基づくものである。そして、このY2の言動に対し、Xは、直接止めるようには言わず、また、2次会では、自ら誘ってY2とカラオケでデュエットしているが、これは、Y2が、本件食事会の出席者の中の最年長者であり、また、Y3町の課長という現場のトップの地位にあり、機嫌を損ねることを畏れたためであると考えられ、同席していた職員らもXがY2の「ふる川」での上記言動を嫌がっていたと感じていたことからすれば、XがY2の言動を不快と感じていたと認められる。以上によれば、Y2の上記言動は、Xに対するセクシャル・ハラスメントとして違法なものといえるから、Y2は、Xに対し、損害賠償義務を負う。

2 Xの損害
Y1のXに対する「わがまま障害者」等の発言は、Xに精神的苦痛を与えるものであるところ、Y1の上記発言の内容や、Y1が上記発言後にXからの抗議を受けて謝罪していること等一切の事情に鑑みれば、これを慰謝するための金銭としては10万円が相当である。
 Y2は、本件食事会において、Xに対し「チューしてええか」「今日やらんか」などの発言をしたほか、同席した2名に対しても「Xさんかんまんか」などと発言をするとともに、Xの腕や手、肩、背中、胸を触るなどの行為を1時間余りの間、繰り返し行ったものである。そして、Xは、本件食事会の3日後の平成29年3月6日にうつ病と診断されており、Y2の言動によりXが被った精神的苦痛は著しいものといえるから、これを慰謝するための金銭としては100万円が相当である。
 以上の次第で、Xの請求は、Y3町に対し、10万円、Y2に対し、100万円及びこれらに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余の請求はいずれも理由がない。
適用法規・条文
国家賠償法1条1項、民法709条
収録文献(出典)
労働判例ジャーナル88号28頁
その他特記事項