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J語学スクール事件 【正社員の地位確認等請求事件(甲事件本訴)】 【損害賠償反訴請求事件(甲事件反訴)】 【雇用関係不存在確認請求事件(乙事件)】

事件の分類
妊娠・出産・育児休業・介護休業等
事件名
J語学スクール事件 【正社員の地位確認等請求事件(甲事件本訴)】 【損害賠償反訴請求事件(甲事件反訴)】 【雇用関係不存在確認請求事件(乙事件)】
事件番号
甲事件…東京地裁 平成27年(ワ)第29819号、甲事件反訴…東京地裁 平成28年(ワ)第32270号、乙事件…東京地裁 平成27年(ワ)第21599号
当事者
甲事件本訴原告、甲事件反訴被告、乙事件被告…個人
甲事件本訴被告、甲事件反訴原告、乙事件原告…株式会社
業種
教育、学習支援業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2018年09月11日
判決決定区分
甲事件本訴:一部許容、一部棄却、一部却下、甲事件反訴:棄却、乙事件:却下〔控訴〕
事件の概要
 甲事件原告(甲事件反訴被告、乙事件被告)Xは、平成20年7月、甲事件被告(甲事件反訴原告、乙事件原告)Y社との間で無期労働契約(以下「本件正社員契約」という)を締結した。Xが在籍していた当時、Y社の従業員は約20名弱であり、このうちXと同じコーチ職の従業員は約12名であった。
Xは、平成25年3月2日、第1子を出産し、その後、育児休業を開始したが、平成26年2月20日の時点で、Xが子を入れる保育園はまだ見つからず、決まっていなかった。育児休業終了日である平成26年9月1日、Y社との間で、期間1年、1週間3日勤務の契約社員となる有期労働契約(以下「本件契約社員契約」という)を内容とする雇用契約書を取り交わした(以下、「本件合意」)。Xは、同月2日、1週間3日勤務の条件でY社に復職したが、同月9日、子を入れる保育園が見つかったとして、Y社に対し、正社員に戻すよう求めた。しかし、Y社は、これに応じなかった。
Y社は、平成27年5月29日、東京地方裁判所に対し、Xを相手方として、Xの正社員としての地位が存在しないことの確認を求める労働審判を申し立てた(平成27年(労)第395号。以下「本件労働審判」という)。本件労働審判については、同年6月30日、第1回手続期日が開かれ、同年7月17日、第2回手続期日が開かれたが、Y社は、同年8月1日、本件労働審判の申立てを取り下げた。また、Y社は、Xに対し、平成27年7月11日頃、同月12日以降自宅待機を命じ、同月31日頃、本件契約社員契約を同年9月1日限り期間満了により終了するとの旨通知し(以下「本件雇止め」という)、同年8月3日、乙事件の訴えを提起した。
  Xは、平成27年10月、Y社に対し、主位的に、正社員として労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する旨の請求を行い、予備的には、Xが、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する請求を行った(本件本訴)。すなわち、本件合意によっても本件正社員契約は解約されておらず、又は、本件合意が本件正社員契約を解約する合意であったとしても、本件合意は均等法及び育介法に違反する、Xの自由な意思に基づく承諾がない、錯誤に当たるなどの理由により無効であり、本件正社員契約はなお存続すると主張して、本件正社員契約に基づき、正社員としての労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、本件正社員契約に基づく賃金と本件契約社員契約に基づく既払賃金との差額を請求した。また、仮に本件合意によって本件正社員契約が解約されたとしても、XとY社は、本件合意において、Xが希望すればその希望する労働条件の正社員に戻れるとの停止条件付無期労働契約を締結したと主張して、Xの希望した所定労働時間の短縮された無期労働契約(以下「本件時短正社員契約」という)に基づき、正社員としての労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに差額賃金の支払いを求めた(主位的請求中の予備的請求)。さらに、仮にXのY社に対する正社員としての地位が認められないとしても、Y社がした本件契約社員契約の更新拒絶は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないと主張して、本件契約社員契約に基づき、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、賃金相当額等の支払いを求めた(予備的請求)。
甲事件反訴は、Xが、平成27年10月、甲事件本訴を提起した日に行った記者会見の席上、虚偽の発言をし、これによりY社の信用等が毀損されたと主張して、不法行為に基づき、慰謝料300万円及び弁護士費用30万円等の支払いを求めた事案である。
主文
1 甲事件本訴の訴えのうち、本判決確定の日の翌日以降の賃金及びこれに対する遅延損害金の支払を求める部分をいずれも却下する。
2 甲事件原告が、甲事件被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
3 甲事件被告は、甲事件原告に対し、平成27年10月から本判決確定の日まで、毎月20日限り1か月10万6000円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
4 甲事件被告は、甲事件原告に対し、110万円及びこれに対する平成27年9月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 甲事件原告のその余の甲事件本訴請求をいずれも棄却する。
6 甲事件被告の甲事件反訴請求を棄却する。
7 乙事件の訴えを却下する。
8 訴訟費用は、甲事件本訴反訴及び乙事件を通じ、これを4分し、うち3を甲事件原告の負担とし、その余は甲事件被告の負担とする。
判決要旨
1本件合意の解釈及びその有効性
Y社における正社員と契約社員とでは、所定労働時間に係る就業規則の適用関係が異なり、また、業務内容について、正社員はコーチ業務として最低限担当するべきコマ数が定められており、各種プロジェクトにおいてリーダーの役割を担うとされているのに対し、契約社員は上記コマ数の定めがなく、上記リーダーの役割を担わないとの違いがあり、その担う業務にも相当の違いがある。したがって、本件正社員契約と本件契約社員契約とを同一の労働契約と理解することは困難である。XとY社は、本件合意の際、「雇用契約書」と題する書面を作成しているところ、社会通念上、労使間において、労働契約を継続しつつ単に労働条件を変更する場合にまで「契約書」と題する書面を作成して取り交わすことは一般的でないといえる。 
本件合意は、本件正社員契約を解約するとともに、これと別途の契約である本件契約社員契約を締結する合意であると解するのが相当である。したがって、本件正社員契約は、本件合意において、XとY社との合意により解約されたものと認められる。
Xは、育児休業終了日の直前である平成26年8月の時点においても、同年9月以降子を入れる保育園が決まらない状況にあった。本件合意により本件正社員契約を解約して本件正社員契約を締結したことは、Xにとって、労働契約上の地位を維持するために必要であり、本件合意がなければ、これを維持することは不可能又は相当困難であった。すなわち、Xにとって、本件合意により得る法的な地位は、これをせずに育児休業終了を迎えた場合に置かれる地位と比較して有利なものであり、本件合意は、その当時のXの状況に照らせば、必ずしも直ちにXに不利益な合意とまではいえず、そうであるからこそ、Xは子を入れる保育園が決まらないという事情を考慮し、Y社代表者から本件契約社員契約の内容につき説明を受け理解した上で、本件合意をしたものと認められる。したがって、これがXの真意によらないY社の強要によるものとは認められず、本件合意は、Xに対する均等法9条3項及び育介法10条にいう不利益な取扱いに当たらない。
Xは、育児休業終了時に子を入れる保育園が決まっていない状況で、その真意により本件合意をしたものと認められ、本件合意に係るXの意思表示に錯誤があるとは認められない。したがって、本件正社員契約の解約を含む本件合意は、Xの自由な意思決定により成立したものと認められ、錯誤により無効であるとは認められない。
本件合意において、XとY社が停止条件付無期労働契約を締結したとの事実は認められない。したがって、Xの1週間3日勤務の正社員に復帰したいとの意思表示は、Y社に対する本件時短正社員契約の申込みにすぎないものであるから、Y社がこれを承諾したとの事実がない以上、本件時短正社員契約の成立は認められない。
2 本件契約社員契約の更新の有無
本件雇用契約書中には契約期間の定めが明確に記載され、XはY社代表者とその読み合わせをしてこれに署名したものであるから、本件契約社員契約を期間の定めのない労働契約と解することはできない。しかし、本件契約社員契約を含むY社における契約社員(1年更新)の制度は、Y社においてもともと無期労働契約を締結していた従業員が育児休業から復職する際の選択肢として創設されたものと解され、いずれ当該従業員が希望すれば無期労働契約を再締結して正社員に復帰することを想定したものであると認められる。また、本件説明書面中には、補足説明として「契約社員→子の就学後→正社員に再変更」との旨の記載があることが認められ、契約社員としての契約は、例として子の就学時まで継続することが予め想定されているものと認められる。
 以上によれば、本件契約社員契約は、労働契約法19条2号の定める、労働者において契約期間の満了時に更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものと認められる有期労働契約に当たる。
Xは、Y社がXに対して平成27年7月31日頃本件契約社員契約の更新を拒絶するとの通知(本件雇止め)をしたのに対し、同年8月4日頃、本件組合及びXの名で抗議及び団体交渉申入書を送付し、本件組合を通じてY社の上記更新拒絶に抗議をするとともにその撤回を求めたことが認められる。そして、有期労働契約に係る労働者の更新の申込みは、使用者による雇止めの意思表示に対して労働者による何らかの反対の意思表示が使用者に伝わるものでもよいと解するのが相当であるから、Xは、本件契約社員契約につき更新の申込みをしたものと認められる。
そこで、本件雇止めが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないか否かにつき、以下検討する。
XとY社との間で平成26年9月から同年12月頃までされた本件契約社員契約を正社員としての労働契約に変更するか否かの交渉過程において、Xは、Xを速やかに正社員に戻すよう要求しつつも、Y社代表者らに対して、正社員に戻ることができる時期や条件を尋ねるなどして、交渉の手掛かりを探す姿勢を示していた。これに対し、Y社代表者らY社の関係者は、言を左右にし、 Xとの間で正社員としての労働契約を締結し直す時期やそのめどを明確にせず、その条件等としても、子が病気等により保育園に入れられないときすら欠勤しないような方策を準備するよう要求し、結局のところ、信頼関係が築かれれば、説得力ある方策が準備されればなど、要するに、Y社がよしとすれば、という回答に終始しているのであって、その説明の内容も一貫しておらず、Xも納得し得る合理的なものとは認められない。
 以上によれば、XがY社に対して正社員に戻すよう求め、その申出を継続したことは、Y社からXとの雇用関係の継続を拒み、本件契約社員契約の更新を拒絶する客観的に合理的な理由となり得ない。
Xは、Y社の他の女性従業員に対してY社代表者らとのやりとりの内容を話したことはあるが、Xに虚偽の事実を述べY社を誹謗中傷したと評価するべき具体的な言動は認められない。
 そして、Y社との交渉経過をY社の他の従業員に対して話すことは、それ自体、労働者が使用者に対して負うべきなにがしかの義務に違反するものではないし、直ちにY社社内の秩序を乱すなどの影響を及ぼすものとは解されない。したがって、これも、本件契約社員契約の更新を拒絶する客観的に合理的な理由には当たらない。
Xが取材を受け、その結果インターネット上のニュースサイトに掲載された報道記事について、これが掲載されるに当たり、Xが取材担当者に対してマタハラという言葉を使ってY社からマタニティハラスメントを受けたと述べたのか、取材担当者がXから取材をした結果そう評価したのかは明らかでない。報道記事中の、社を挙げてのマタハラ、労働局の指導も会社は無視などの記載は、評価を含むものであり、これがXが取材担当者に対して述べた文言であるとまでは認めるに足りない。したがって、この点において、本件契約社員契約の更新を拒絶する客観的に合理的な理由に当たる事実は認めるに足りない。
XがY社代表者の指示を受け入れず、Y社事業所内での録音の禁止を拒否して、 Y社の代表者との会話をその同意を得ずに一方的に録音し、また、その後、当面執務室での録音を差し控えるとの旨自ら約したのに、同年7月11日、再び上記と同じ無断録音行為をしたことは、認定事実のとおりである。
 他方、一般に労使間の紛争において、その争点に係る労使間の会話の録音が重要な証拠になることは社会通念上明らかであり、Xにこれを後日証拠化するために録音をする必要があったことは否定できない。また、Xが上記を含む無断録音行為により、現に上記情報が第三者に漏えいされるなど、Y社に損害が生じたとの事実もない。 
 以上によれば、この点において、XがY社代表者の指示に従わない行動をしたこと、Y社に対して自ら約束したことすら守らなかったこと自体の当否の問題はあるものの、Xの上記行為自体、本件契約社員契約の更新を拒絶する客観的に合理的な理由に当たるものとは認め難い。
結局、Y社が本件契約社員契約の更新を拒絶する客観的に合理的な理由に当たり得る事実は、平成27年7月11日にY社事業所内において、就労時間中にY社代表者の同意を得ず一方的に録音を開始し、退出を命じたY社代表者の指示に従わずY社代表者の後を追ったことと、就業時間中に業務用のパソコンを用いて上記業務外の電子メールの送受信をしたことの2点にとどまる。そして、Xの上記各行為のみよっても、更新の合理的期待が認められる本件契約社員契約について、Y社が本件契約社員契約の更新を拒絶することが客観的に合理的な理由が十分にあるとは容易に解し得ず、雇止めが社会通念上やむを得ないものと解するには足りない。すなわち、本件雇止めは、客観的に合理的な理由を欠くものであり、社会通念上相当であると認められない。
 したがって、Y社は、本件契約社員契約について、今日まで、Xの更新の申込みを承諾したものとみなされるのであって、Xの本件契約社員契約に基づく労働契約上の権利を有する地位の確認並びに賃金及び遅延損害金の支払を求める請求(ただし、本判決確定後の将来請求分を除く。)はいずれも理由がある。

3 Y社による不法行為の有無
本件合意がXに対する均等法9条3項及び育介法10条の定める不利益な取扱いに当たらないことは、前示のとおりである。また、 Xが正社員に戻るためには、Y社との間で、正社員としての勤務につき労働条件等を定めた新たな労働契約を締結する合意を経なければならないものである。
Y社における「契約社員(1年更新)」としての労働契約は、育児休業終了後の選択肢の一つとして、1週間5日の勤務日数はそのままに所定労働時間のみを短縮した「正社員(時短勤務)」としての労働契約とともに設けられている制度であり、育児休業終了の時点で、本人の希望又は育児環境等の事情等により1週間5日勤務による就労が困難な「正社員」が、退職を余儀なくされることを避けるための選択し得る就業形態と解される。そして、前各労働契約の内容が記載された本件説明書面中には、特に契約社員について、「本人が希望する場合は正社員への契約再変更が前提です」との補足説明が記載されている。以上を考慮すれば、Xにおいて、育児休業終了時の事情等によって1週間5日勤務による就労が困難であり、退職を余儀なくされることを回避するために、本件合意により「契約社員(1年更新)」の地位となることを選択したものであったとしても、本件合意後に保育園に空きが出て子を入れることが可能となる見込みであるという事情変更を踏まえ、平成26年9月8日から同月10日頃にかけて、Y社に対し、その旨知らせるとともに、1週間5日勤務の正社員に復帰することを希望してその旨申し出た時点で、XとY社は、Y社において労働者が希望する場合の「前提」と標ぼうする「正社員への契約再変更」に向けた準備段階に入ったというべきである。
 そして、契約準備段階において交渉に入った者同士の間では、誠実に交渉を続行し、一定の場合には重要な情報を相手方に提供する信義則上の義務を負い、この義務に違反した場合は、それにより相手方が被った損害につき不法行為に基づく損害賠償責任を負うと解するのが相当である。
Y社は、自身の不誠実な交渉態度を棚上げする一方で、具体的かつ建設的な交渉の実施を求めるXの行動や姿勢等を問題視して、特段の合理的な理由のないままにクラスの担当を外したほか、労働契約上の指示・命令の外形を用いて、懲戒処分の可能性等をちらつかせ、服務規律や企業秩序の維持と無関係な労働契約の締結に係る交渉場面における譲歩を労働者であるXに迫ったものであり、その態様は、業務改善指導書等の数にして17通もの多数に及ぶばかりか、本件組合から抗議を受けてもこれを止めないなど、使用者の労働者に対する行為として社会通念上許容されないものというほかない。
加えて、 Xが正社員への復帰を求めたことを契機に行った平成26年9月24日の面談の中で、Xの上長が「俺は彼女が妊娠したら、俺の稼ぎだけで食わせるくらいのつもりで妊娠させる。」旨発言したが、これは単に上長自身の家庭観に基づく個人的な意見を表明したにすぎないといえなくもないが、不用意かつ不適切な言動であって、その発言の場面が、Xが正社員への職場復帰を求めて行われた上長との面談の場であることを踏まえれば、交渉に臨む態度として許容されないものというべきである。
以上のとおり、Y社は、Xが正社員への契約再変更を「前提」とするY社の立場を踏まえて契約社員から正社員への復帰を求めたのに対して、Y社は、Xを正社員に戻す労働契約の締結に係る交渉において不誠実な対応に終始して、Xを正社員に復帰させる時期や条件等について具体的かつ合理的な説明を何ら行わなかったものであるから、契約準備段階における交渉当事者間の信義則上の義務に違反したものと認められる。したがって、Y社は、Xに対し、不法行為に基づき、これによってXが被った損害を賠償するべき義務を負う。Y社がXに対して支払うべき慰謝料の金額としては、100万円が相当である。

4 Xによる不法行為の有無(乙事件)
X及びX訴訟代理人弁護士らは、甲事件本訴を提起したことに関連して、本件記者会見を行ったものと認められる。そして、 Xの「子供を産んで戻ってきたら、人格を否定された。」)は、Xが本件の経緯から受けた感想を述べたものであって、X及びXの訴訟代理人が殊更にY社を非難するような具体的発言、あるいはY社にいわゆるマタニティハラスメントに当たる行為があったと述べたりその旨印象を与える発言をしたりしたとの事実は認められない。その余の発言(「平成26年9月に育児休業期間終了を迎えたが、保育園が見つからなかったため休職を申し出たものの認められず、Y社から1週間3日勤務の契約社員になるか自主退職するかを迫られた。」「やむを得ず契約社員としての雇用契約を締結したところ、1年後に雇止めされた。」「上司の男性が、『俺は彼女が妊娠したら俺の稼ぎだけで食わせるくらいのつもりで妊娠させる』と発言した。」「Xが労働組合に加入したところ、代表者が『あなたは危険人物です』と発言した。」)は、その内容自体及び発言がされた場に照らせば、いずれも一般にXが甲事件本訴においてその旨主張しているとの事実を摘示したと理解されるものであって、Y社代表者らが上記行為をしたとの事実を摘示したものではないというべきである。
したがって、本件発言がそれのみによってY社の名誉や信用が毀損される行為であるとは認められない。仮に本件記者会見に係る報道を見聞した者がそれのみによりY社に対する評価を低めたとしても、それは、当該報道機関による報道の仕方によるか、あるいはその者の偏った受け止め方というべきことであって、これが直ちに本件発言の結果であると解することは相当でない。その余の点について判断するまでもなく、乙事件のY社の請求は理由がない。 
適用法規・条文
民法709条、均等法9条3項、育児介護休業法23条1項、2項、
労働契約法19条2号
収録文献(出典)
労働判例1195号 28頁
その他特記事項
本件は控訴された。