判例データベース

N社(地位確認等請求)事件

事件の分類
解雇
事件名
N社(地位確認等請求)事件
事件番号
東京地裁 平成26年(ワ)第33637号
当事者
原告…個人、被告…企業
業種
卸売業、小売業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2016年03月22日
判決決定区分
請求認容
事件の概要
被告Y社は、鞄の製造、卸を手がける株式会社であり、原告Xは平成23年7月1日に期間の定めのない契約でY社に雇用された中国籍の女性である。Xは、入社当時から営業部門に所属し、元請けとの取引に関し、営業部長のもとで、生地の発注、印刷の手配、出荷状況の確認、伝票の整理等のサポート的な仕事を担当していた。そのため、Xは、元請けに出荷する製品につき、検品や瑕疵製品の修理等の進行状況を確認するため、営業部門のあるY社事務所の2階のフロアから、検品部門のある3階のフロアに行くことがあった。
Xは、平成26年5月に妊娠が判明し、Y社の代表者は、同年6月にこれを認識した。
Y社は、平成26年8月12日、Xに対し、同日付け解雇予告通知書をもって、同年9月30日限りで解雇する旨の意思表示をした。同解雇予告通知書には、解雇理由として、Y社の社員就業規則40条3号(「協調性がなく、注意及び指導しても改善の見込みがないと認められるとき」)と5号(「会社の社員としての適格性がないと判断されるとき」)に該当する旨記載されていた。
本件は、Xは、Y社がXに対して行った解雇(以下「本件解雇」という。)の意思表示について、(1)妊娠中のXに対してされたものであり、その妊娠を理由とするものであって、均等法9条3項に反し、同条4項により無効である、(2)Y社の主張する解雇理由は事実でなく、就業規則40条3号、5号に該当しないし、仮にXの勤務態度に問題があったとしても解雇権の濫用に当たる、(3)就業規則は周知性を欠き無効であり、また、就業規則の変更に当たり、従業員の代表者の選任に民主的手続が取られておらず、少なくとも変更後の就業規則は無効であって、無効な就業規則やその条項に基づく本件解雇は無効である、などと主張して、雇用契約上の地位を有することの確認並びに同地位を前提とした賃金及び遅延損害金の支払を求める事案である。
主文
1 原告が、被告に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 被告は、原告に対し、平成26年10月から本判決確定の日まで、毎月25日限り、21万円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。
判決要旨
Y社は、Xが検品部門の従業員らに対し、命令口調で仕事を急がせたり、大声で叱責したりしたことにより、検品部門の従業員らに、Xが3階に現れることについて強い不安感を与え、仕事に対する集中力を著しく阻害させた旨主張する。しかし、Xが検品部門の従業員に対して理不尽な指示や叱責を繰り返したという主張はにわかに採用できない。また、Y社の主張はそれ自体十分な具体性を有しないものであり、これを認めるに足りる的確な証拠もなく、採用できない。
 Y社は、Xが仕事上の間違いや失念があってもその非を認めず、休暇届を提出しないで欠勤されたことを指摘されても、そんなことは聞いていなかったなどと常に責任転嫁の言い訳をして謝ろうとしなかった、また、平成26年4月頃から自分宛のものしか電話を取ろうとはしなくなり、同年6月頃からは他の従業員とあいさつもしなくなった旨主張する。
Xが口頭の申出のみで休暇を取ることがあったこと、平成26年4月頃にY社代表者から休暇を取るときはあらかじめ休暇届を出すように言われた際、今まで出すように言われたことはない旨述べたことは当事者間に争いがないものの、この一度のやり取りをもってしてXに協調性がない、又はY社の従業員としての適格性がないと評価するのは相当でなく、その余の事実はこれを認めるに足りる的確な証拠はない。
Y社が解雇理由として指摘する事実は、その事実が認められないか、あるいは、有効な解雇理由にならないものであるから、Xに対する注意・指導に関するY社の主張はその前提を欠く。Xが就業規則40条3号、5号に該当するとは認められず、そうすると、仮に、Y社主張のとおり、本件解雇がXの妊娠を理由としたものでないとしても、本件解雇には、客観的な合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められず、解雇権を濫用したものとして、無効である(労働契約法16条)。
よって、その余の点について判断するまでもなく、本件雇用契約の終了は認められず、Xは現在でもY社に対して雇用契約上の権利を有する地位にあり、平成26年10月以降もXはY社に対する月額21万円の賃金請求権を有する(民法536条2項本文)。
 よって、Xの請求は理由があるからこれを認容することとし、主文のとおり判決する。
適用法規・条文
均等法9条3項、均等則2条の2、育児介護法10条、
労働基準法39条7項、労働基準法附則136条
収録文献(出典)
労働判例1145号130頁
その他特記事項
本件は控訴された。