判例データベース
HTS社(派遣添乗員・就業規則変更)控訴事件
- 事件の分類
- その他
- 事件名
- HTS社(派遣添乗員・就業規則変更)控訴事件
- 事件番号
- 東京高裁 − 平成30年(ネ)第2449号、平成30年(ネ)第2758号
- 当事者
- 控訴人兼附帯被控訴人 個人(X1,X2の2名)
被控訴人兼附帯控訴人 株式会社 - 業種
- サービス業(人材派遣業)
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2018年11月15日
- 判決決定区分
- Xらの控訴棄却、Y社の附帯控訴一部認容(原判決変更)、一部棄却
- 事件の概要
- Y社(1審被告、被控訴人、附帯控訴人)に雇用されて添乗員として旅行業者に派遣されてツアーの添乗業務に従事していたX1とX2(1審原告。控訴人兼被附帯控訴人。以下、まとめて「Xら」ということがある。)が,時間外労働等の割増賃金と未払賃金及び労基法第114条の付加金の請求をした事案である。
Xらは,Y社により平成20年に作成され,又は平成26年に変更された就業規則はXらを拘束しないと主張し,雇用契約及び労働基準法(労基法)第114条本文に基づいて,Y社に対し,時間外労働,休日労働及び深夜労働(時間外労働等)の割増賃金並びにこれらに対する遅延損害金等を請求した事案の控訴審である。
1審判決は、Y社の平成20年就業規則の制定は,実質的にみて合理的な労働条件を定めたものとして,Xらに対し効力を生ずるとした上,同規則は基本給には4時間分の時間外勤務手当見合分を含む規定があるところ,4時間は労基法第37条の割増賃金部分に当たるとし、これに係るXらの請求する未払残業代の一部及び同額の付加金請求を認めたが,平成26年就業規則の変更後の帰着分(同年10月以降)の未払分はないとし,その余の請求を棄却した。これを不服としてXらが控訴し、Y社も1審の敗訴部分について附帯控訴をした。 - 主文
- 1 被控訴人の各附帯控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。
(1)被控訴人は,控訴人X1に対し,3万6830円,うち5044円に対する平成30年7月13日から支払済みまで年6%の割合による金員,うち5976円に対する平成26年9月26日から支払済みまで年6%の割合による金員及びうち2万5810円に対する同年10月25日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。
(2)被控訴人は,控訴人X1に対し,3万6830円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
(3)被控訴人は,控訴人X2に対し,5万4006円(原文のまま引用),うち3万7179円に対する平成30年7月13日から支払済みまで年14.6%の割合による金員並びにうち1万5662円に対する平成26年10月25日から平成27年5月31日まで年6%及び同年6月1日から支払済みまで年14.6%の各割合による金員を支払え。
(4)被控訴人は,控訴人X2に対し,5万2841円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
(5)控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。
2 控訴人らの各控訴をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを50分し,その49を控訴人らの負担とし,その余を被控訴人の負担とする。
4 この判決は,1項(1)及び(3)に限り,仮に執行することができる。 - 判決要旨
- (1)Y社において,Xら登録派遣添乗員との間で労働契約を締結する際に労働条件の内容となる就業規則を制定し,又は変更することは,形式的に個別の労働契約が繰り返し締結され,労働契約を異にすることから,就業規則や労働条件の変更という概念そのものには当たらないとしても,相当期間にわたって同一の労働条件で労働契約の締結を繰り返してきたことに加え,ツアーごとに個別の労働契約が締結されるとはいえ,就業規則に定めがある事項についてこれと異なる内容で個別の労働契約が締結されることは想定されておらず,その意味で,個別の労働契約のうち一定事項は同一内容で締結されていたという前判示の諸事実を総合考慮すれば,控訴人らを含む登録派遣添乗員に適用される就業規則は,常用の労働契約における就業規則と同様に,一定期間継続して登録派遣添乗員との間の労働契約の内容を一律に規律する効力を果たしている実情にあるといえる。そして,就業規則について,労契法9条及び10条が,使用者において労働者の不利益に一方的に変更することはできず,一定の厳格な要件の下にのみこれを許容した趣旨は,就業規則が一律に労働契約の内容となるという効力を有する(同条7条)点にもあると解されることに照らせば,本件においても,同法9条及び10条の趣旨に照らし,被控訴人において,就業規則の変更が無制約に許されるものではないが,上記登録派遣添乗員と被控訴人との間の労働契約の特性を前提とした上で,登録派遣添乗員の受ける不利益の程度,労働条件の変更の必要性,変更後の就業規則の内容の相当性,労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情を総合考慮し,就業規則の変更が合理的なものであるときは,同変更は登録派遣添乗員に対して効力を有すると解するのが相当である。」
(2)「前訴前訴東京高裁判決は,日当が所定労働時間8時間分の賃金であるものとし,割増賃金等の額を算出するに当たっては,日当の8分の1の額を基礎金額と認めるのが相当であると判断しているところ,平成20年就業規則によれば,日当は,8時間の所定労働時間分及び4時間の時間外労働時間分が含まれることになり,かつ,基礎金額は日当の13分の1となり,基礎金額が減額となっていることが認められるから,前訴東京高裁判決の上記認定よりは不利益な定めといえる。
他方,平成20年就業規則においては,それまでの日当を10.6%増額しているところ,原判決が説示するとおり,平成20年就業規則の下では,1日12時間に満たない労働をした場合にその満たない時間の賃金を日当から控除することはできず,日当満額を受領できるから,この点においては,Xらに有利であるといえる。
また,Xら登録派遣添乗員とY社との労働契約関係は,派遣期間中に限って成立し,個別の労働契約が繰り返し締結されるものであって,月収又は年収の合意はなく,また,査定又はランクの変更等により賃金額の変更があり得ること,Y社は,平成20年就業規則制定前,派遣添乗員との間の労働契約には,事業場外労働時間のみなし制の適用があり,かつ,日当は8時間分の所定労働時間分と3時間分の時間外手当分を含んでいると主張し,他方,控訴人らは,同労働契約には事業場外労働時間のみなし制の適用はなく,日当は8時間分の労働の対価であると主張し,見解が対立していたところ,前訴最高裁判決等は,事業場外労働時間のみなし制の適用を否定し,さらに前訴東京高裁判決は,上記Y社の日当に関する主張について,8時間の所定労働時間に対する賃金部分と3時間の所定時間外労働に対する割増賃金部分が明確に区別され,これについてY社とX1との間において,Y社主張の合意がされていたとは認められないとして上記のとおり判断したことが認められ,Y社とXらとの間で,基礎金額について合意が成立していると認定したものではないことも併せ考慮すると,平成20年就業規則は,同規則制定前の日当について,前訴東京高裁判決の上記認定よりは不利益な定めとなっているが,XらとY社との間で合意されていた賃金額が不利益に変更されたということはできない。
平成20年就業規則の制定は,前訴東京高裁判決の認定した賃金額を減額するものであり,この点において,Xらに不利益な内容であるといえるものの,XらとY社との間で合意されていた賃金額が不利益に変更されたというものではないこと,日当額は増額がされたこと,変更の内容が相当性を欠くものとはいえないこと,Y社において,就業規則を制定する必要性があり,経営状況に鑑みると,前訴東京高裁判決の認定した賃金額を支払うことはできなかったこと及び前記認定の労働組合との団体交渉を通じた労使の交渉の経過など前記認定に係る諸事情を総合考慮すれば.平成20年就業規則の制定による労働条件の変更は,合理的であると認められる。
したがって,平成20年就業規則は,有効であるというべきである。
(3)Yによる任意弁済額を充当すると,Xらの請求は,時間外労働等に対する割増賃金に係る請求については,X1につき,3万6830円,うち5044円に対する平成30年7月13日から支払済みまで商事法定利率年6%の割合による遅延損害金,うち5976円に対する平成26年9月26日から支払済みまで上記年6%の割合による遅延損害金及びうち2万5810円に対する同年10月25日から支払済みまで上記年6%の割合による遅延損害金,X2につき,5万4006円(原文のまま引用),うち3万7179円に対する平成30年7月13日から支払済みまで賃確法6条1項等が定める利率である年14.6%の割合による遅延損害金並びにうち1万5662円に対する平成26年10月25日から平成27年5月31日まで上記年6%及び同年6月1日から支払済みまで上記年14.6%の各割合による遅延損害金の各支払を求める限度で理由があり,付加金に係る請求については,X1につき,3万6830円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金,X2につき,本判決別紙7のとおり,5万2841円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで上記年5%の割合による遅延損害金の各支払を求める限度で理由があるが,Xらのその余の請求はいずれも理由がない。 - 適用法規・条文
- 労働基準法第37条、労働基準法第89条、労働基準法第114条、労働契約法10条
- 収録文献(出典)
- 労働判例1194号13頁
- その他特記事項
- 関連判例 Y社(派遣添乗員・第1)事件 1審(東京地裁平22.5.11判決、労働判例1008号91頁(要旨))、控訴審(東京高裁平23.9.14判決、労働判例1036号14頁)、上告審(最高裁第2小法廷平26.1.24決定、未掲載)。Y社(派遣添乗員・第2)事件 1審( 東京地裁平22.7.2判決、労働判例1011号5頁)、控訴審(東京高裁平24.3.7判決、労働判例1048号6頁)、上告審(最高裁第2小法廷平26.1.24判決、労働判例1088号5頁)。Y社(派遣添乗員・第3)事件 1審(東京地裁平22.9.29判決、労働判例1015号5頁)、控訴審(東京高裁平24.3.7判決、労働判例1048号26頁)、上告審(最高裁第2小法廷平26.1.24決定、未掲載)。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
東京地裁 − 平成27年(ワ)第33400号 | 請求一部認容、一部棄却 | 2018年03月22日 |