判例データベース
K市不当拒否損害賠償請求控訴事件
- 事件の分類
- 職場でのいじめ・嫌がらせ職業性疾病
- 事件名
- K市不当拒否損害賠償請求控訴事件
- 事件番号
- 福岡高裁 − 令和1年(ネ)第373号
- 当事者
- 控訴人 個人(X1,X2)
被控訴人 K市(地方公共団体) - 業種
- 地方公共団体(市)
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2019年12月23日
- 判決決定区分
- 控訴棄却、追加請求(慰謝料等請求)棄却
- 事件の概要
- 亡Aは、平成24年4月、K市(被告)のB区役所の子ども・家庭相談コーナー相談員(非常勤職員)となり、平成25年1月頃、うつ病を発症し、同年3月31日をもって退職した後、別の職場で勤務しながらうつ病の治療を続けていたが、平成27年5月21日、自殺した。
本件は、亡Aの両親であるX1,X2(いずれも原告。以下、まとめてXら)が、亡AがK市を退職して約2年2か月後に自殺したのは、在職中の上司のパワーハラスメントによってうつ病を発症したのが原因であり公務災害に当たるとして、K市議会の議員その他非常勤の職員の公務災害補償等に関する条例(以下、本件条例)に基づいて公務災害補償の実施機関であるK市の市長に対して本件災害につき公務災害の認定又は確認を申請したにもかかわらず、市長がこれに応答しなかったのは、市長その他のK市の職員において、地方公務員災害補償法の規定に違反して、被災職員又はその遺族から実施機関に対して公務災害か否かを認定又は確認してその結果を通知するよう求める権利を認めていない本件条例を制定、放置したこと、本件条例の解釈及び運用を誤って、本件条例が上記権利を認めていないものと誤解し、本件災害について、公務災害か否かの認定又は確認をせず、その結果の通知もしなかったこと、本件条例の施行規則に違反して、本件災害について、職員に報告をさせず、適切な調査等を行わなかったことによるものであり、その結果、Xらは、本件災害が公務災害か否かについて市長の認定又は確認を受け、その結果の通知を受けることに対する期待権を侵害され、精神的苦痛を被ったと主張して、K市に対し、国家賠償法1条1項に基づき、慰謝料及び遅延損害金の支払を求めた事案である。1審(福岡地方裁判所2019(平成31)年4月19日判決)は、Xらの請求を棄却したため、Xらが控訴した。
控訴にあたり、Xらは、予備的請求として、本件条例において,あらかじめ公務災害の認定を受ける手続を経なくても補償の請求をすることやその請求が認められない場合に北九州市公務災害補償等審査会(以下「審査会」という。)に対して不服申立てをすることが可能であったとすれば,K市の職員は,その旨をXらに教示する義務があったのに,これを怠ったために,Xらは,本件条例に基づく補償の請求をする機会やその請求が認められなかったことに対する不服申立ての機会を奪われ,精神的苦痛を被ったと主張して,同項に基づき,前同様の損害賠償を求める請求を追加した。 - 主文
- 1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴人らの当審における追加請求をいずれも棄却する。
3 当審における訴訟費用は,すべて控訴人らの負担とする。 - 判決要旨
- 1)Xら主張の請求権又は申出権について
Xらは,本件条例においても,解釈上,被災職員等に公務災害認定の請求権又は申出権が認められるべきである旨主張する。しかし,Xらがその根拠として挙げる点を併せ考慮しても,本件条例についてXら主張のような公務災害該当性についての実施機関の判断を求める請求権又は申出権を認めないY市の職員の解釈及び運用に違法があるということはできない。
(2)Y市の職員の対応の適否について
Xらが本件災害が公務災害に該当するとの申出をしたのに対し,市長は,回答書1をもって,Xらに公務災害の認定自体についての請求権はないと回答したが,その後,Xらから本件条例11条,14条及び15条に基づく遺族補償等の支給を請求された際には,回答書2をもって,亡Aの自殺が公務上のものであると認定されていないことを理由に請求を拒む回答をしている。
このような市長の対応は,公務災害該当性についての認定自体を求めるXらの請求又は申出に対しては,本件条例において被災職員等にその認定を求める請求権や申出権は認められていないことを理由として結果の通知をせず(なお,回答書1がX1の代理人弁護士に対して送付された時点では,Xらによる遺族補償等の支給を求める請求はされていなかったのであるから,Y市が回答書1をもって否定したのは,公務災害該当性についての認定自体を求める請求権及びその認定をしないことに対する不服申立権であり,Xらの遺族補償等を求める具体的補償請求権の存在を否定したものでないことが明らかである。),Y市が回答書2をもって遺族補償等を求める具体的補償請求権を否定したのは,その時点において,市長が本件災害の公務災害該当性を認める判断をしておらず,市長による公務災害の認定がない以上,Xらに対して補償を実施することができない旨を回答したものであって,これらは,本件条例3条2項,本件条例施行規則3条及び9条に則ったものであると認められる(なお,Xらが,遺族補償等を求める請求に対する市長の回答書2における判断に対しては,本件条例18条に基づく審査を申し立てることは妨げられないものと解され,同回答書にもそれが許されない旨の記載はない。)。
したがって,Y市の職員が本件条例の解釈及び運用を誤ったということはできない。
なお,本件条例施行規則2条及び3条は,北九州市平成30年に改正されて平成31年2月26日から施行されたところ,これらの改正後の規定は,上記施行日前に発生した災害について,実施機関が,同日以降,被災職員等から公務により生じた旨の申出を受けたり,公務外認定をした場合にも適用されると解されるが,本件災害について,同日以降にXらが上記申出をしたり,市長が上記認定をしたりしたことはないから,市長が本件災害について改めて指定の職員に本件災害の報告をさせず,Xらに対して公務外認定の通知をしなくても,上記規定に違反することにはならない。
(3)市長が職員に本件災害について本件条例施行規則2条に基づく報告をさせなかったことに国賠法1条1項の違法があるかについて
本件条例施行規則2条は,実施機関が,その所管に属する職員について,公務により生じたと認められる災害が発生した場合は,その指定する者に,公務災害発生届により速やかに報告させなければならない旨を規定する。
この規定は,文言上,実施機関において災害が公務により生じたと認められると判断した場合に適用されるものであることが明らかである。
また,仮に,実施機関において災害が公務災害と認められると判断しなかったことに誤りがあったとしても,この規定による報告は,実施機関が公務上発生したものか否かを認定する内部的な手続を開始するためのものであって,直ちに被災職員等の法的地位に影響を及ぼすものではなく,前記説示のとおり,本件条例で定める補償の制度においては,被災職員等は,実施機関から本件災害が公務災害該当性についての認定の通知がされなくても,本件条例や本件条例施行規則に定める手続によって不服を申し立て,訴訟によってY市に対して補償の請求をすることも可能である。
したがって,実施機関が上記報告をさせなかった場合に,それが直ちに被災職員等に対する関係で国賠法1条1項の違法を帯びることになるとはいえない。
(4)Y市の職員のXらに対する本件条例に基づく補償請求に関する手続の教示に国賠法1条1項の違法があるか
回答書1は,未だ具体的補償請求権に基づく請求がされていない段階で,本件条例において,被災職員等が実施機関に対して災害が公務上のものか否か自体についての認定を求める請求権を認めていないことや,本件災害については,市長が公務災害該当性について何らの決定もしていないため,その決定に先んじて審査の申立てをすることができないことを述べるものであって,前記説示したところによれば,そのこと自体に誤りがあるとはいえない。
また,Xらからの具体的補償請求権に基づく遺族補償等の請求に対する回答のために作成された回答書2は,本件災害について公務災害該当性についての認定がされていないために請求に応じられないとの回答をしたものであり,この回答に対する本件条例18条に基づく審査の申立ての可否については触れていないものの,その内容自体に誤りがあるとはいえない。
そして,本件条例に基づく具体的な補償の請求やそれについての審査の申立てには,期間制限がなく,短期間のうちに補償の請求権や不服申立ての機会を失うわけではない上,Xらが当時から委任していた弁護士からも法的な助言を受けることが可能であったことにも照らすと,Y市の職員に,Xらがあらかじめ公務災害の認定手続を経なくても実施機関に対して具体的な補償の請求をすることが可能であることや,それが拒否された場合に本件条例18条に基づく審査申立てが可能であることについて,Xらに教示する義務があったということはできない。
しかも,Xらは,市長から回答書1を受け取った後の平成29年3月には,代理人弁護士に委任して自らの判断でY市に対して遺族補償等の請求をしたのであり,市長からこの請求に応じられない旨の回答書2を受け取ったことに対しても,同年8月に遺族補償等の支給を求める訴訟を提起しているのであるから,Xらが,上記各回答書の内容が前記認定のようなものであったことによって,何らかの損害を被ったともいえない - 適用法規・条文
- 国家公務員法第1条1項
- 収録文献(出典)
- 労働判例ジャーナル96号62頁(要旨)
LEX/DB25564684 - その他特記事項
- 本件は上告されたが、最高裁は上告を不受理とした。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
福岡地裁 −平成29年(ワ)第2757号 | 請求棄却 | 2019年04月19日 |
上告審 最高裁判所第3小法廷 令和2年(オ)第490号、令和2年(受)第618号 (上告不受理)決定 | (上告不受理)決定 | 2020年9月15日 |