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AE社地位確認等請求事件

事件の分類
賃金・昇格妊娠・出産・育児休業・介護休業等
事件名
AE社地位確認等請求事件
事件番号
東京地裁 − 平成29年(ワ)第31423号
当事者
原告  個人
被告 株式会社
業種
金融業・保険業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2019年11月13日
判決決定区分
一部却下、一部棄却
事件の概要
X(原告)が,産前産後休業及び育児休業(以下、まとめて「育児休業等」という。)の取得を理由に,チームリーダーの役職を解かれ,アカウントマネージャーに任命されるなどの措置を受けたことが,男女雇用機会均等法9条3項及び育児・介護休業法10条,Y社(被告)の就業規則等又は公序良俗(民法90条)に違反し人事権の濫用であって違法・無効であるとして,主位的に,上記措置がとられる前のY個人営業部の東京のベニューセールスチームのチームリーダー(バンド35)又はその相当職の地位にあることの確認を求め,予備的に,Y個人営業部のアカウントマネージャーとして勤務する労働契約上の義務が存在しないことの確認を求めるとともに,不法行為又は雇用契約上の債務不履行に基づき,損害賠償金2859万2433円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成29年9月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
主文
1 本件訴えのうち,被告の個人営業部の東京のベニューセールスチームのチームリーダー(バンド35)又はその相当職の地位にあることの確認を求める部分を却下する。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,原告の負担とする。
判決要旨
(1)YがXに対してした本件措置1−1が均等法又は育介法等に反して違法・無効であるか否か
 Xが育児休業等による休業中にYからチームリーダーの役職を解く旨の辞令やその連絡を受けたことはなく,平成27年8月の時点では,Xが産前休業を取得するに当たり,Xチームに仮のチームリーダーが置かれたにすぎず,Xからチームリーダーの役職を解く措置がとられたとみることはできない。また,平成28年1月には,Xチームが消滅しているけれども,他方で,Xのジョブバンドは同月以降もバンド35のままであり,Yの人事制度の下では特定のジョブバンドに対応する主な役職が設けられていて,Xが実際に復帰した際にはバンド35に相当する役職に就くことが予定されていたということができる。そうすると, 本件措置1−1(Xチームの消滅)の一事をもって,Xからチームリーダーの役職を解かれたとか,Xの所属が不明な状態に置かれたとみることはできず,他にそのような評価を基礎付ける事実を認めるに足りる証拠はない。
 以上からすれば,本件措置1―1を、降格として,均等法9条3項,育介法10条所定の「不利益な取扱い」に当たるということはできない。

(2)YがXに対してした本件措置1−2(Xを平成28年組織変更により新設したアカウントセールス部門のマネージャー(アカウントマネージャー)(バンド35)に配置した)とが均等法又は育介法等に反して違法・無効であるか否か
 Yの人事制度及び給与体系等に照らせば,給与等の従業員の処遇の基本となるのはYにおいてはジョブバンドであるといえるから,例えばいわゆる職能資格制度における職能等級をさげるというような典型的「不利益な取扱い」としての降格は,本件においては,ジョブバンドの低下を伴う措置をいうと解することが相当である。その意味では,本件措置1−2はジョブバンドの低下を伴わない措置であり,いわば役職の変更にすぎず,上記典型的「不利益な取扱い」としての降格ということはできない。
 以上からすれば,本件措置1−2は,降格又は不利益な配置変更として,均等法9条3項,育介法10条所定の「不利益な取扱い」に当たるということはできない。

(3)アカウントマネージャーとしてXを配置した本件措置2について
 本件措置2は,平成29年組織変更により新設されたリファーラル・アカウントセールスチームのチームリーダーとしてAを配置したものであり,Xが育児休業等から復帰してから5か月後にされたものである。Yは,平成29年組織変更において,東京のベニューセールスチームについて3チームから2チームとすることとしたが,チームリーダーの在任期間や家庭の事情から残存するチームのチームリーダーを変更することが困難であったため,Xの配置先についてはアカウントセールス及びリファーラルセールスを担当する新設チームへの配置を検討することとなり,そのチームリーダーの人選についてXを含む候補者の中から検討した結果,Xの復帰後の勤務態度等を考慮し,他方でAの実績を考慮して,同人を同チームのチームリーダーとし,Xをアカウントマネージャーとして配置したのである。そうすると,本件措置2はXの育児休業等の取得を理由としてされた措置であるということはできない。
 本件措置2はXの育児休業等の取得を理由としてされた措置と認めることができないから,均等法9条3項,育介法10条所定の「不利益な取扱い」に当たるか否かを検討するまでもなく,同法に反する措置ということはできない。
(4)本件措置1−2,本件措置2の就業規則等違反の有無について
 Yの就業規則等においては,「復職については原則として休業前の部署及び職務に復帰するものとする。ただし,本人の希望がある場合及び組織の変更等やむを得ない事情がある場合には,部署及び職務の変更を行うことがある。」と規定されている。しかしながら,上記規定の内容に照らせば,上記規定は,その「及び」という用語は措辞適切を欠くというべきであるものの,育児休業からの復職時に部署や職務の変更が行われるのは,本人の希望がある場合や組織の変更等やむを得ない事情がある場合にあるとの意であって,本人の希望があり,かつ,やむを得ない事情があるとの意ではなく,要するに,いずれか一方が認められる場合をいうものと解される。
 そして,本件措置1−2は,平成28年組織変更において,東京のベニューセールスチームのうちコストコ担当の2チームを1チームに集約し,新規販路の拡大を専門に行う部門としてアカウントセールス部門を新設するためにとられたものであり,組織の変更等やむを得ない事情がある場合にされた措置とみることができる。また,本件措置2は,Xの育児休業等復帰から5か月後の平成29年組織変更において,リファーラル・アカウントセールスチームを新設し,同チームのチームリーダーの人選についてXの復帰後の勤務態度やZ5の評価など関係事項等を総合考慮した結果とられた措置であって,やむを得ない事情がある場合にされたものとみることができる。
 したがって,本件措置1−2及び本件措置2がYの就業規則等に反するということはできない。
(5)本件措置1及び同2が公序良俗に違反し又は人事権の濫用として違法・無効であるか否かについて
 本件措置1及び同2が執られた営業上の必要性等に照らして、Xが被った不利益が極めて大きく,育児休業等の取得に対する抑制力が過剰に強いということはできない。
 そうすると,本件措置1及び2が公序良俗に反し,または,人事権の濫用であるとの主張は,その前提を欠くこととなる。Xの上記主張は失当であり採用することができず,本件措置1及び同2が公序良俗に違反し又は人事権の濫用として違法・無効であるとはいえない。 
(6)マタニティハラスメント防止措置義務違反の有無について
 Yは,育児休業復帰後のアカウントセールス業務及びリファーラルセールス業務において,Xが自主的,積極的に業務を行う姿勢に欠けたことから,他のバンド35の社員との相対評価において,Xの人事評価のリーダーシップの項目を3と評価としたものであり,本件措置3はXの育児休業等の取得が理由でされたものとはいえない。また,Xは,個人営業部の実績の4倍のパフォーマンスを上げていた旨主張するが,前記認定事実によれば,Yは同人事評価においてXの実績については2と評価しているところ,Xが主張する事情はそもそもリーダーシップ項目の評価に関するものということができるのか疑問があるし,その他に上記認定を左右するだけの事実を認めるに足りる的確な証拠もない。
 したがって,そもそも本件措置3が均等法9条3項又は育介法10条に反するということはできないから,同措置は,均等法9条3項又は育介法10条に反し,ひいては職場環境配慮義務違反等による債務不履行又は不法行為を構成するとのXの上記主張は,その前提を欠き失当であることとなる。
適用法規・条文
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律第9条第3項、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律第10条、民法第90条、同709条
収録文献(出典)
労働判例1224号72頁
その他特記事項
本件は控訴された。