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F通運上告事件

事件の分類
その他
事件名
F通運上告事件
事件番号
最高裁二小 − 平成30年(受)第1429号
当事者
上告人  個人(1審原告、反訴被告、被控訴人)
被上告人  株式会社(1審被告、反訴原告、控訴人)
業種
運輸業、郵便業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2020年02月28日
判決決定区分
原判決破棄差戻し
事件の概要
 X(1審原告、反訴被告、被控訴人、上告人)は、平成17年5月にY(1審被告、反訴原告、控訴人、被上告人)に雇用され、運転手として稼働していた。Y社では、その事業に使用する車両すべてに自動車保険契約等を締結していなかった。
 平成22年7月26日、Xは、業務としてトラックを運転中に、交差点で自転車を運転するAに接触して転倒させ、Aは同日死亡した(本件事故)。
 Aの相続人の長男Bと次男Cのうち、CはY社に対し損害賠償を請求する訴訟を提起し、Y社とCとの間で平成25年9月に訴訟上の和解が成立し、Y社はCに1300万円を支払った。Bは、Xに対し訴訟を提起し、裁判所は1383万円余りと遅延損害金の支払を求める限度でBの請求を認容し、判決が確定した。
 本件は、Xが、本件事故に関し、Aに加えた損害を賠償したことによりY社に対する求償権を取得したなどと主張して、Y社に対し求償金等の支払を求めたものである。1審(大阪地方裁判所2017(平成29)年9月29日判決)は,Xの請求を839万2222円及び遅延損害金の範囲で認容したためYが控訴し、控訴審(大阪高等裁判所2018(平成30)年4月27日判決)は1審判決を取消してXの請求を棄却したため、Xが上告した
主文
原判決中,上告人の本訴請求に関する部分を破棄する。
前項の部分につき,本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
判決要旨
民法715条1項が規定する使用者責任は,使用者が被用者の活動によって利益を上げる関係にあることや,自己の事業範囲を拡張して第三者に損害を生じさせる危険を増大させていることに着目し,損害の公平な分担という見地から,その事業の執行について被用者が第三者に加えた損害を使用者に負担させることとしたものである(最高裁昭和30年(オ)第199号同32年4月30日第三小法廷判決・民集11巻4号646頁,最高裁昭和60年(オ)第1145号同63年7月1日第二小法廷判決・民集42巻6号451頁参照)。このような使用者責任の趣旨からすれば,使用者は,その事業の執行により損害を被った第三者に対する関係において損害賠償義務を負うのみならず,被用者との関係においても,損害の全部又は一部について負担すべき場合があると解すべきである。
 また,使用者が第三者に対して使用者責任に基づく損害賠償義務を履行した場合には,使用者は,その事業の性格,規模,施設の状況,被用者の業務の内容,労働条件,勤務態度,加害行為の態様,加害行為の予防又は損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし,損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において,被用者に対して求償することができると解すべきところ(最高裁昭和49年(オ)第1073号同51年7月8日第一小法廷判決・民集30巻7号689頁),上記の場合と被用者が第三者の被った損害を賠償した場合とで,使用者の損害の負担について異なる結果となることは相当でない。
 以上によれば,被用者が使用者の事業の執行について第三者に損害を加え,その損害を賠償した場合には,被用者は,上記諸般の事情に照らし,損害の公平な分担という見地から相当と認められる額について,使用者に対して求償することができるものと解すべきである。
 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中,Xの本訴請求に関する部分は破棄を免れない。そして,XがYに対して求償することができる額について更に審理を尽くさせるため,上記部分につき本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官菅野博之,同草野耕一の補足意見,裁判官三浦守の補足意見がある。
適用法規・条文
民法715条
収録文献(出典)
労働判例1224号5頁
その他特記事項
本件は高裁に差し戻された。