判例データベース
学校法人S医科大学事件
- 事件の分類
- 賃金・昇格
- 事件名
- 学校法人S医科大学事件
- 事件番号
- 福岡地裁小倉支部 − 平成27年(ワ)第701号
- 当事者
- 原告 個人
被告 学校法人 - 業種
- 教育、学習支援業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2017年10月30日
- 判決決定区分
- 棄却
- 事件の概要
- X(原告)は,昭和55年3月に短大を卒業し,Y(被告)にアルバイト職員として採用され,同年4月から大学病院歯科口腔外科で勤務を開始し,同年8月1日には,改めて臨時職員として採用され,現在に至るまで30年以上にわたり臨時職員として同科に勤務しているものであり,所属講座の予算管理や経費支出の手続き,物品管理,教務・学生について講義の準備や出欠管理,奨学寄附金に関する業務等を担当している。 本件は,の臨時職員であるXが,使用者であるYに対し,両者間の労働契約(本件労働契約)に係る賃金の定めが有期労働契約であることによる不合理な労働条件であって,無期労働契約を締結している労働者(以下「正規職員」という。)との間で著しい賃金格差を生じており,労働契約法20条及び公序良俗に違反するとして,不法行為に基づき,損害金824万0750円及びこれに対する平成27年9月4日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
- 主文
- 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 - 判決要旨
- (1)平成25年4月1日から現在までの本件労働契約における賃金の定めが労契法20条に違反するか
Xは,昭和55年8月1日に臨時職員としてYに採用され,以来,歯科口腔外科に勤務し,本件労働契約を毎年更新してきたものである。業務の有無や繁忙度等に差異はあるものの,学会等の開催に関連する業務,奨学寄附金等の外部資金の管理,科研費の管理,講義資料の作成等の教務関係業務,研究補助業務等である。また,Xは,Y理事長による指示等はないものの,時間外勤務を行ってきている
Xは比較対象者としてB氏、C氏,D氏、E氏、F氏を上げる。上記各氏との比較において,平成25年4月1日から現在までの本件労働契約における賃金の定めが労働契約法20条に違反するか否かについて検討する。
ア まず,B氏についてみると,いわゆる教務職員として,Xと同種の業務を取り扱っていた時期があるものと窺われるが,同氏は,幾度かの配置換え,主任,係長さらには課長代理への昇任,それにともなう昇給等の経歴を有しており,加えて,昭和57年1月29日には高気圧治療技師の資格を取得するなど,これらの経歴等をして平成25年4月以降の給与額に至っているものと認められる。また,同氏が上記のような昇任を果たしていることから見て,責任の程度においてもXと同氏を同列に見ることは困難というべきであって,Xと同氏が同様の業務を取り扱っているとの単純な比較をすることは相当ではない。
したがって,同氏との比較において,本件労働契約における賃金の定めが労働契約法20条に違反するということはできない。
イ C氏及びD氏についてみると,C氏は,Yに採用されて以来,動物研究センターに勤務し,同センターに係る多様な技術的業務に携わり,同業務に関連する特定化学物質等作業主任者の資格を取得しているものであり,他方,D氏は,Yに採用されて以来,法医学教室に勤務し,同教室に係る専門的,技術的業務に携わってきたものであって,両名とXの業務内容には歴然とした差異があるものというべきである。
したがって,C氏及びD氏との比較において,本件労働契約における賃金の定めが労働契約法20条に違反するということは困難である。
ウ E氏についてみると,同氏とXとは比較的類似した業務を担当するものとは見受けられるが,証拠を精査するも,業務の内容やその範囲,業務量等において同等のものと評価できるだけの立証には乏しいのであり,加えて,同氏においては,幾度かの配置換えや主任への昇任,これらに伴う昇給を経て,平成25年4月以降の給与額に至っているものと認められ,同氏が衛生検査技師や臨床検査技師の資格を有していることなどを併せ考慮するならば,経歴や責任の程度等においても異なるなど,Xと同氏が同様の業務を取り扱っているとの単純な比較をすることは困難である。
したがって,Xと同氏との比較において,本件労働契約における賃金の定めが労働契約法20条に違反するとまでいうことはできない。
エ F氏についてみると,同氏においても,事務職としてXと類似した業務を担当してきたものと考えられるところであるが,E氏と同様に,業務の内容やその範囲,業務量等において同等のものと評価できるだけの立証に乏しく,また,幾度かの配置換えや主任への昇任,これらに伴う昇給を経て,平成25年4月以降の給与額に至っているものと認められ,同氏が臨床検査技師の資格を有していることなどを併せ考慮すれば,経歴や責任の程度等においても異なるなど,Xと同氏が同様の業務を取り扱っているとの単純な比較をすることは困難である。したがって,Xと同氏との比較において,本件労働契約における賃金の定めが労働契約法20条に違反するとまでいうことはできない。
オ 以上のとおり,上記各氏との比較において,平成25年4月1日から現在までの本件労働契約における賃金の定めが労働契約法20条に違反すると認めることはできず,他にXの主張を裏付ける的確な根拠は見出せない。
(2)件労働契約における賃金の定めが公序良俗に違反するかについて
平成24年8月から平成25年3月までの本件労働契約における賃金の定めが公序良俗に反しないことは,前記に述べるところと同様である。
なお,Yの臨時職員の制度は,それ自体は合理性を有するものと考えられるが,その沿革等に照らし,もともとXのように30年以上にもわたる長期雇用を想定したものとは考え難い。それにもかかわらず,Yが臨時職員の長期雇用を解消しようと積極的な取組み等を行ったことは窺われず,遺憾なことといわなければならないが,他方において,Xも正規職員への積極的な意欲を有していたとは見受けられないのである(正規職員(学長秘書室)への誘いを断ったことがあるというのである。)。このような状況に至った経緯については原・Y双方に相応の事情が存するのであろうが,いずれにしても,本件労働契約における賃金の定めが公序良俗に違反するとまで認めることはできない。 - 適用法規・条文
- 労働契約法20条、民法709条
- 収録文献(出典)
- 労働判例1198号74頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
福岡高裁 − 平成29年(ネ)第886号 | 控訴一部認容(原判決変更)一部棄却 | 2018年11月29日 |