判例データベース
有限会社C・A協同組合ほか事件
- 事件の分類
- 退職・定年制(男女間格差)その他
- 事件名
- 有限会社C・A協同組合ほか事件
- 事件番号
- 広島高裁 − 令和2年(ネ)第316号、令和2年(ネ)第330号
- 当事者
- 控訴人兼附帯被控訴人X1、X2,X3(いずれも個人)
被控訴人兼附帯控訴人 Y1 有限会社
被控訴人兼附帯控訴人 Y2(Y1の代表取締役)
被控訴人兼附帯控訴人 Y3 協同組合(A協同組合。監理団体)。 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2021年03月26日
- 判決決定区分
- 原判決一部変更、控訴一部棄却、附帯控訴棄却
- 事件の概要
- 技能実習制度に基づき、監理団体を被控訴人兼附帯控訴人Y3協同組合として、実習実施機関である被控訴人兼附帯控訴人Y1社のパン製造工場でのパン製造業の技能実習生として上陸・在留していた控訴人兼附帯被控訴人X1,X2,X3(以下、まとめてXら)が、Y1社代表者である被控訴人兼附帯控訴人Y2の業務命令により、Y1社が経営する旅館、飲食店等において食器洗浄、調理、接客等のパン製造に従事していたところ、入管法違反(資格外活動)の嫌疑により逮捕勾留され,技能実習を継続できなくなった。釈放後、XらはY3の研修所に移され、X3は帰国し、X1とX2は他の技能実習実施機関での技能実習を継続することとなった。
Xらは、Y1社在職中の時間外労働等の割増賃金を請求するとともに、入管法違反の嫌疑によって逮捕・勾留等されたことにより技能実習を継続できなくなったことについて、その技能実習の監理団体であるY3協同組合,実習実施機関であるY1社及びその代表取締役であるY2に対し,不法行為(Y1社に対しては,選択的に債務不履行)に基づく損害賠償請求として,人X1につき171万7075円,X2につき171万6235円及びX3につき456万5364円並びにこれらに対する遅延損害金の連帯支払を求める事案である。
原審(広島地裁2020年9月23日判決)は,割増賃金の請求を認容するとともに、技能実習を継続できなくなったことについて、X1につき31万2603円,X2につき31万2603円及びX3につき31万1872円の損害賠償金並びにこれらに対する遅延損害金の支払を求める限度において,Xらの不法行為に基づく損害賠償請求を認容し,その余をいずれも棄却した。これを不服としてXらが控訴したところ、附帯控訴人ら(以下、Yら)が附帯控訴をした。 - 主文
- 1 本件各控訴に基づき原判決主文第4項,第8項,第12項,第15項(ただし,控訴人らの不法行為及び債務不履行に基づく損害賠償請求並びにそれらの附帯請求に関する部分に限る。)を次のとおり変更する。
(1)被控訴人らは,控訴人X1に対し,連帯して,64万5075円及びこれに対する平成28年6月19日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
(2)被控訴人らは,控訴人X2に対し,連帯して,64万4235円及びこれに対する平成28年6月19日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
(3)被控訴人らは,控訴人X3に対し,連帯して,83万9009円及びこれに対する平成28年6月19日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
(4)控訴人らのその余の不法行為及び債務不履行に基づく損害賠償請求並びにそれらの附帯請求をいずれも棄却する。
2 本件各附帯控訴をいずれも棄却する。
3 訴訟費用(控訴費用,附帯控訴費用を含む。)は,控訴人らと被控訴人らとの関係では,第1,2審を通じて,控訴人X1に生じた費用の5分の3,被控訴人会社らに生じた費用の5分の1及び被控訴人組合に生じた費用の5分の1を控訴人X1の負担とし,控訴人X2に生じた費用の5分の3,被控訴人会社らに生じた費用の5分の1及び被控訴人組合に生じた費用の5分の1を控訴人X2の負担とし,控訴人X3に生じた費用の5分の4,被控訴人会社らに生じた費用の10分の3及び被控訴人組合に生じた費用の10分の3を控訴人X4の負担とし,控訴人X1及び同X2に生じた費用の各5分の1,控訴人X3に生じた費用の10分の1並びに被控訴人会社らに生じたその余の費用を被控訴人会社らの負担とし,控訴人ら及び被控訴人組合に生じたその余の費用を被控訴人組合の負担とする。
4 この判決は,第1項(1)ないし(3)に限り,仮に執行することができる。 - 判決要旨
- (1)Xらの稼働機会の喪失とのYらの責任原因
Xらは,Yらによる不法行為の結果として,Y1社において資格外活動を行うこととなり,その結果として,入管法違反罪(同法73条,19条1項1号違反の資格外活動)により,平成28年6月19日から同年7月8日まで逮捕勾留され,その身柄拘束の期間中,技能実習生としてY1社において稼働することができなくなったものである。Yらの上記不法行為と,Xらの上記期間中の身柄拘束ないし稼働機会の喪失との間には,相当因果関係が認められる。
さらに、Xらは,平成28年7月8日の身柄釈放後には,Y3協同組合により研修施設に移動させられ,X1及びX2については同年9月5日にM株式会社に転籍して就労を開始するまでの間,X3については同月8日にインドネシア共和国に帰国するまでの間,いずれも同所に居住しており,その居住の期間中,控訴人会社その他の実習実施機関において稼働していない。
技能実習は,入管法に基づき技能実習生として本邦に入国・上陸する外国人と実習実施機関との間の信頼関係を基礎とするところ,XらがY1社の業務命令に従ってした稼働が入管法違反行為(資格外活動)と判断され,これによりXらが逮捕勾留されたことは,XらとY1社との間の信頼関係を著しく毀損するものであって,これを早期に回復することは容易ではない。広島入国管理局も,X1及びX2の転籍を認めているところ,そもそも技能実習生の別の実習実施機関への転籍はやむを得ない事由がなければ許されないことを踏まえると,同局としても,Y1社における技能実習を打ち切るのもやむを得ない事態に至っていると判断したことが推認され,そのような事態に至った原因は,Y1社の業務命令からXらの逮捕勾留に至る一連の経緯のほかには見当たらない。
そうすると,X1及びX2については,Yらの不法行為と,上記の釈放から転籍先における稼働開始までの期間中の稼働機会の喪失との間には,相当因果関係が認められる。
これに対し,X3は,身柄釈放後に就労することなく帰国しているところ,X3に限って転籍先が確保できないような特別な事情等は明らかにされておらず,X3の健康上の理由が帰国の時期に影響を与えた可能性が窺われることも考え併せると,X3も,帰国せずに引き続き転籍先を調整していれば新たな実習機関に転籍できたと推認される。そうであれば,X3については,Yらの不法行為と相当因果関係のある稼働機会の喪失期間は,転籍までに必要な期間とし,具体的には3か月間と認めるのが相当である
Yらは,いずれも,共同不法行為者として,Xらに対しては各自が損害全額の賠償責任を負うのであって,仮に,Xらの間の相談,助言,指導,打診等の過程において,Yらの落ち度に大小の差があるとしても,そのような事情は,飽くまでもYら内部の責任割合(寄与度)の問題として,Yらの間の求償の場面で考慮されるにとどまる。
(2)損害の発生及び額
X1及びX2については,Yらの不法行為と相当因果関係のある逸失利益の額は,平成28年6月19日の逮捕から,同年9月5日の転籍先における就労再開までの期間の賃金相当額となり、Yらの不法行為と相当因果関係のあるX3の逸失利益の額は,平成28年6月19日の逮捕から同年7月8日の釈放までの20日間及びその後3か月間の賃金相当額となる。
(3)慰謝料
Xらは,Yらの不法行為により逮捕勾留され,精神的苦痛を被った。Xらの来日経緯,Yらによる先の責任原因の経緯・態様,逮捕勾留された期間等,本件に顕れた一切の事情を考慮すると,その額は,各控訴人につき20万円と認めるのが相当である
技能実習制度の趣旨や同制度の下における技能実習生の位置付けに鑑みれば,Xらは,Y1社において技能実習生として就労して技能等の修得又は習熟を図ることをみだりに妨げられない利益を有するものと解されるところ,Xらは,Yらの不法行為によって所期の技能実習を行えず,精神的苦痛を被った。この経過に照らすと,被控訴人らの不法行為と上記精神的苦痛との間にも相当因果関係が認められる。
そして,Xらの来日経緯,Yらによる先の責任原因の経緯・態様,その後の経緯等,本件に顕れた一切の事情を考慮すると,その額は,Xら各人につき10万円と認めるのが相当である。 - 適用法規・条文
- 民法709条
- 収録文献(出典)
- 労働判例1248号5頁
- その他特記事項
- 原審 広島地裁 平成29年(ワ)56号 判決 2020/9/23
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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